書評

『悲しみと無のあいだ』(文藝春秋)

  • 2026/02/14
悲しみと無のあいだ / 青来 有一
悲しみと無のあいだ
  • 著者:青来 有一
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(148ページ)
  • 発売日:2015-07-22
  • ISBN-10:4163903038
  • ISBN-13:978-4163903033
内容紹介:
原爆投下の長崎にこだわる作者の思索とイメージの深まりを示す傑作中編二作。「その日のすべて」を描くための、大胆で繊細な試み。長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イ… もっと読む
原爆投下の長崎にこだわる作者の思索とイメージの深まりを示す傑作中編二作。「その日のすべて」を描くための、大胆で繊細な試み。

長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イメージの深まりを示す2篇。

原爆で妻と子どもを喪った自由律俳句の俳人、松尾あつゆきの日記を読みながら、「被爆者の証言やエピソードを粘土のようにこねまわして物語(フィクション)をこしらえてきた」自分へのうしろめたさを意識する「わたし」。林京子さんの「自由に書いていいのですよ」という言葉から、さらなるイメージの飛翔がはじまる――。【「愛撫、不和、和解、愛撫の日々」】

戦争を経験し、原子爆弾の光景を目撃した父の病死。家族と葬儀の準備をしながら「わたし」は、言葉をもたず、その光景を語らなかった父のかわりに、「感傷に流されることなく人間のしわざを告発するなにかを書くことができないか」、模索を始める。
愛読してきた作品……フォークナーの『八月の光』や宮沢賢治の『よだかの星』、アンリ・デュナンの『ソルフェリーノの記念』やクロード・シモンの『フランドルへの道』にインスピレーションを得て文体を掴み取り、「廃墟のなかをさまよう十六歳の父の内奥にしみこんでいった被爆の実相」を書こうと試みる。
それが「しょせんは想像でしかない」、「なにもわかりもしない」、なぜなら「わたしたちはついに語り合えなかった」のだから、と自らを戒めながらも、作家は想像力の翼をひろげ、その日の長崎を描き出そうとする。【「悲しみと無のあいだ】

父の被爆、作家の肉声に近く

青来有一は1958年生まれ。戦後世代でありながら、生地・長崎に落とされた原爆をめぐって小説を書いてきた。その一つの達成は、今年『人間のしわざ』として刊行されたが、本書では、より作家の肉声に近い形で小説は綴(つづ)られている。

なくなった父親は被爆者だったが、原爆について、被爆体験についてほとんど語らないまま世を去った。作家である主人公の「わたし」は、父親が語らなかった余白をなんとか埋めようとする。

どうすればそれは埋められるのか。埋めることは許されるのか。ヒントは意外なところにあった。クロード・シモン『フランドルへの道』が援用される、架空の被爆経験の箇所は圧巻である。
悲しみと無のあいだ / 青来 有一
悲しみと無のあいだ
  • 著者:青来 有一
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(148ページ)
  • 発売日:2015-07-22
  • ISBN-10:4163903038
  • ISBN-13:978-4163903033
内容紹介:
原爆投下の長崎にこだわる作者の思索とイメージの深まりを示す傑作中編二作。「その日のすべて」を描くための、大胆で繊細な試み。長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イ… もっと読む
原爆投下の長崎にこだわる作者の思索とイメージの深まりを示す傑作中編二作。「その日のすべて」を描くための、大胆で繊細な試み。

長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イメージの深まりを示す2篇。

原爆で妻と子どもを喪った自由律俳句の俳人、松尾あつゆきの日記を読みながら、「被爆者の証言やエピソードを粘土のようにこねまわして物語(フィクション)をこしらえてきた」自分へのうしろめたさを意識する「わたし」。林京子さんの「自由に書いていいのですよ」という言葉から、さらなるイメージの飛翔がはじまる――。【「愛撫、不和、和解、愛撫の日々」】

戦争を経験し、原子爆弾の光景を目撃した父の病死。家族と葬儀の準備をしながら「わたし」は、言葉をもたず、その光景を語らなかった父のかわりに、「感傷に流されることなく人間のしわざを告発するなにかを書くことができないか」、模索を始める。
愛読してきた作品……フォークナーの『八月の光』や宮沢賢治の『よだかの星』、アンリ・デュナンの『ソルフェリーノの記念』やクロード・シモンの『フランドルへの道』にインスピレーションを得て文体を掴み取り、「廃墟のなかをさまよう十六歳の父の内奥にしみこんでいった被爆の実相」を書こうと試みる。
それが「しょせんは想像でしかない」、「なにもわかりもしない」、なぜなら「わたしたちはついに語り合えなかった」のだから、と自らを戒めながらも、作家は想像力の翼をひろげ、その日の長崎を描き出そうとする。【「悲しみと無のあいだ】

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2015年9月3日

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