書評

『写真論――距離・他者・歴史』(中央公論新社)

  • 2026/02/11
写真論――距離・他者・歴史 / 港 千尋
写真論――距離・他者・歴史
  • 著者:港 千尋
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(282ページ)
  • 発売日:2022-01-07
  • ISBN-10:4121101235
  • ISBN-13:978-4121101235
内容紹介:
光で像を刻む! ニエプスによる実験成功から二〇〇年、常時接続されたカメラが見つめる日常は、刻一刻と「写真化」している。撮られる世界のほうが、撮る人間のことをよく知っている画像の世紀… もっと読む
光で像を刻む! ニエプスによる実験成功から二〇〇年、常時接続されたカメラが見つめる日常は、刻一刻と「写真化」している。撮られる世界のほうが、撮る人間のことをよく知っている画像の世紀に、撮るべきものはまだ残っているだろうか。コロナウイルスの世界的流行が問う〈距離〉、再考を迫られる〈他者〉との関係、不透明な未来を前に〈歴史〉の鏡を探りつつ、その始まりから最先端までを、社会のなかに深堀りする写真論の挑戦。

目次
序論 「写真化」する文明
第1部 距離(社会的距離の起源について;自由の檻;新しいトロンプ・ルイユ)
第2部 他者(黒人写真史のために;顔の機械;仮装の島へ;写真とハビトゥス)
第3部 歴史(後ろ姿と歴史;ユリシーズの時間;回帰する眼差し)

人を常時見つめる世界

生物学者のライアル・ワトソンは、一九七六年に発表した『未知の贈りもの』で、衝撃的な体験を報告している。インドネシアのヌス・タリアンの海で、彼の乗った小舟は、巨大な光の輪に取り囲まれる。イカの巨大な群れは、クルーの動きによって、放つ光の強度や頻度を変化させていく。光は感情を表現しているかのようだった。私たちはイカを観察しているのではなく、地球に見つめられている。「われわれは地球の目であり、耳であり、われわれの考えることは地球的思考である」。地球をひとつの生命体と考えるなら、イカもカメラもその目であるとも考えられる。

港千尋の秀作『写真論』は、視覚をめぐる関係性の変動が、現実を揺るがしていると告げている。デジタル・カメラの出荷数が激減するのと反比例するように、スマートフォンなどで撮られる写真の数は、飛躍的に増大した。さらに街頭の監視カメラのように、常時接続されている映像が世界を見つめている。さらには、人間が撮る写真は、人間の営みを記録する映像によって乗り越えられつつある。港は「写真圏」が地球を覆っていると考える。

本書は二百年の写真の歴史を、メディアの劇的な変化を踏まえて、更新しようとする。距離、他者、歴史の視点によって、現在から過去へさかのぼり再構築していく。活躍中の写真家も縦横に引用する。また、半世紀以上前に書かれた文化人類学者エドワード・ホールの『かくれた次元』の研究を例にとる。「密接距離」「個体距離」「社会距離」「公衆距離」。新型コロナウイルスの脅威が、人と人との距離、ソシアル・ディスタンスを変えた事態をとらえ直す。

注目すべきは、アフリカ系アメリカ人撮影の写真群の歴史である。ゴードン・パークスの「アメリカン・ゴシック、合衆国政府のために掃除婦として働くエラ・ワトソン、ワシントンDC」(一九四二年)は、今も緊迫力を失わない。写真の奥から見つめ返す黒人の視線が、鑑賞者を揺さぶり、覚醒させる。誠実な写真の力を明らかにしていた。
写真論――距離・他者・歴史 / 港 千尋
写真論――距離・他者・歴史
  • 著者:港 千尋
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(282ページ)
  • 発売日:2022-01-07
  • ISBN-10:4121101235
  • ISBN-13:978-4121101235
内容紹介:
光で像を刻む! ニエプスによる実験成功から二〇〇年、常時接続されたカメラが見つめる日常は、刻一刻と「写真化」している。撮られる世界のほうが、撮る人間のことをよく知っている画像の世紀… もっと読む
光で像を刻む! ニエプスによる実験成功から二〇〇年、常時接続されたカメラが見つめる日常は、刻一刻と「写真化」している。撮られる世界のほうが、撮る人間のことをよく知っている画像の世紀に、撮るべきものはまだ残っているだろうか。コロナウイルスの世界的流行が問う〈距離〉、再考を迫られる〈他者〉との関係、不透明な未来を前に〈歴史〉の鏡を探りつつ、その始まりから最先端までを、社会のなかに深堀りする写真論の挑戦。

目次
序論 「写真化」する文明
第1部 距離(社会的距離の起源について;自由の檻;新しいトロンプ・ルイユ)
第2部 他者(黒人写真史のために;顔の機械;仮装の島へ;写真とハビトゥス)
第3部 歴史(後ろ姿と歴史;ユリシーズの時間;回帰する眼差し)

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2022年3月26日/中日新聞 2022年3月27日

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