書評
『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)
おもしろくってタメになる
おもしろくってタメになる。なあんて、まるで営業妨害をしているような陳腐な表現だと思われるかもしれませんが、この本は本当に「おもしろくってタメになる」本なんです。この本は「仕事術」の本として、実用的であるばかりでなく、深くものを考えさせる思想書でもある。と私は思います。しかも文章は読みやすく、おもしろく、バカバカしかったり、エロかったり、くだらなかったり、やらしかったり大サービス。
私はみうらじゅんさんの本を、読めば読むほど尊敬してしまう。みうらさんは私より、いくつだったか、年下であり、私より一つ年下の糸井重里さんを尊敬していて、亡くなった渡辺和博(私はナベゾと呼んでいた。私より三つも年下だ)を、渡辺さんと呼び、ナベゾはアンタ、糸井さんはみうらと呼びつけにしてるのに、私はみうらさんをみうらとか、みうらクンとは呼べないです。
たとえば私は、美術について文章を書くことがあると、まるでひとつ覚えのように、美術評論家だの世間の評価だのは関係ない。自分がおもしろいか、好きか嫌いかで、自分が楽しめばいいのだ。みたいなことを、一本調子にクドく言うばかり。
ところが、みうらさんが一言「ボク宝」とかって、ダジャレのようなことを言うだけで、いっぺんに同じことがスッと伝わるうえにそれがバーッと広がります。
すごいなァと思っていると今度は「好き嫌いで判断してちゃダメだ」と言われる。これは何も前段の私の発言に対して言ったわけではないので、自分があるモノに対して深く追求しよう、とする場合、違和感を持つもの、あまり好きになれないようなものこそが、ムリにでも好きになった時、「自分が変われる」という話です。
私は、自分で自分の発言にしばられて、こんな自由な発想はできなかった。世間がとるに足らないと価値を見い出していないようなモノやコトに殊更に入れあげるということはできても、自分がいやなもの、好きでないと感じたものに、何かあるとは思ってもみない。
つまり、自分というものは、ずっと変わらずにある。と思い込んでいたということです。ムリにでも好きになることで、わかることがある。そして「自分が変われる」。
すばらしいことじゃないですか。発見や発明は、自分が変わることなのだ。発見があり、発明がなされた時に、自分は以前の自分とは違う自分になっているんでした。
こうした「思想」が、無造作に語られている一方で、いままで自分がどのように仕事をしてきたか、という具体的な方法、具体的な仕事術が惜し気もなく明かされている。
そのように若い頃からの履歴が語られながら、少しも自慢気でないというのも奇跡的なことです。
私は若い人にこの本をススメたい。おもしろくってタメになる本です。最後にあとがきから著者のことばを引いておきましょう。
人生どうなるかなんてわかりませんが、ひとつはっきりしていることは、他人と同じことをしていては駄目だということです。なぜかというと、つまらないからです
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