書評
『ビジネスモデルの教科書: 経営戦略を見る目と考える力を養う』(東洋経済新報社)
ビジネスの成功パターン その「なぜ」を突き詰める
成功する戦略を31のビジネスモデルに分けて解説する。一見すると、よくある戦略コンサルタントの書いた指南書のように早える。タイトルもそっけない。ところがどっこい、本書は凡百の類書とは一線を画す。「ビジネスモデル」について書かれた経営書は数多いのだが、玉石混交。この手の本は安直な「戦略テンプレート集」になりがちだ。率直に言って、玉よりも石の方がずっと多い。空欄を箇条書きで埋めていけば一丁上がり、という類のテンプレートに対するニーズは根強い。しかし、テンプレートの穴埋めでは優れた戦略はつくれない。拙著『ストーリーとしての競争戦略』でも強調したことだが、個別のアクションをつなぐ因果論理にこそ戦略の妙味がある。二流の「戦略スタッフ」がフレームワークやテンプレートを使って安直に戦略をつくると、肝心のロジックが骨抜きにされて、無味乾燥なアクションリストが出てくる。
ビジネスモデルというのは、映画に例えれば、「ジャンル」にすぎない。「コメディー」「ラブロマンス」「アクション」「シリアスドラマ」といったジャンルを挙げるのは容易である。しかし、あるジャンルが他のそれよりも優れているわけではない。アクション大作のヒットが続いているからといって、「じゃあアクションものでいこう」と決めても、成功を約束しないのは言うまでもない。同じアクション映画でも、厳然として面白いものとつまらないものがある。ジャンルを網羅的に知っても、面白いストーリーがつくれなければ意味がない。戦略ストーリーが「面白い」かどうかは、収益や価値創造の背後にある論理にかかっている。
成功する戦略の「パターン認識」は有用で大切なのだが、それぞれが相互に異なった収益獲得の論理を持つように分類するという作業は、実際にやってみると非常に難しい。
31のパターンを網羅的に識別した後で、それぞれについて「なぜ」を突き詰める。ここに著者の本領がある。各パターンの概要と事例が示された後で、そこでなぜ価値が創造されるのか、有効に機能する条件は何か、落とし穴はどこにあるのか、こうした論点についての論理が簡潔に示される。実務経験の中で磨き抜かれた著者の論理のキレと洞察の深みを感じさせる。淡々としたコンパクトな記述にかえって凄みがある。これこそ最良の「戦略型稽古」の書。戦略の基盤を支える論理のショーケース。実践的な戦略論として秀逸極まりない。脱帽の一言。
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