書評
『ザ・会社改造 340人からグローバル1万人企業へ』(日本経済新聞出版社)
この本はモノが違う。類例がない、といってもよい。
類例がないとはどういうことか。経営実務家が自らの経験に基づいてつづった経営書は数多い。もちろんピンからキリまである。ピンの方に限っての話だが、実際の経営経験から絞り出だされる知見は余人をもって代えがたいものがある。例えば日本電産会長である永守重信の『情熱・熱意・執念の経営』。僕のような舌先三寸の経営学者には到底語れない重みと深みと迫力がある。
ところが、どんなに優秀な人でも、経営者は自分の会社や商売の文脈にどっぷり浸(つ)かっている。だからこそ迫力のある優れた内容になるのだが、その分どうしてもバイアスがかかり、視野や視点が限定される。だから読者が自分の文脈で応用しにくい。
要するに「鬼に金棒」というわけにはなかなかいかないのである。実務経験豊富な鬼は、鬼であるがゆえに金棒(汎用性のある知見)は振り回せない。経営者が自らの経験からいきなり汎用的な知見を引き出してくれる名著もあるが、その手の本は仕事や人生の哲学を語り(その典型例が松下幸之助『道をひらく』)、経営の実際に踏み込まない。「鬼」というよりは「神」になってしまう。
本書はまさに「鬼に金棒」。経営の鬼である著者が金棒をぶんぶん振り回してくる。迫力があるのはもちろん、経営に携わる人にとって尋常ならざる普遍的有用性がある。経営とは結局、因果関係の論理の束である。著者はそれを「因果律」という。著者が体得した因果律が抽象化され、固有名詞がそぎ落とされ、本気になれば誰もが経営の文脈で適用できる知見が紡ぎ出される。
本書のヤマ場はいくつもある。産業財商社「ミスミ」が国際化の勝負に出る4章はそのーつだ。初めての挑戦に米国の前線は混乱を極める。著者は手綱を引いたり(近視眼的な成功にこだわる現場に一段と高い達成目標を与える)緩めたりしながら(この「緩め方」がすごい。少しでも早く事業を立ち上げようと前のめりになる現場の意に反して、あえて戦略の実行を大幅に遅らせるのだ)、非連続的な成長軌道に乗せていく。経営の修羅場を踏み越える中で獲得された因果律を見抜く力にしびれる。
日本経済の停滞の根本的原因は経営者人材の枯渇にあると著者は言う。その情熱には年季が入っている。驚くべきことに、ミスミ社長就任時に「社長就任の第一の目的は経営人制の育成」と言い切っている。全く教科書的な構成でも書き方でもないが、これこそ最高の経営の教科書だ。
類例がないとはどういうことか。経営実務家が自らの経験に基づいてつづった経営書は数多い。もちろんピンからキリまである。ピンの方に限っての話だが、実際の経営経験から絞り出だされる知見は余人をもって代えがたいものがある。例えば日本電産会長である永守重信の『情熱・熱意・執念の経営』。僕のような舌先三寸の経営学者には到底語れない重みと深みと迫力がある。
ところが、どんなに優秀な人でも、経営者は自分の会社や商売の文脈にどっぷり浸(つ)かっている。だからこそ迫力のある優れた内容になるのだが、その分どうしてもバイアスがかかり、視野や視点が限定される。だから読者が自分の文脈で応用しにくい。
要するに「鬼に金棒」というわけにはなかなかいかないのである。実務経験豊富な鬼は、鬼であるがゆえに金棒(汎用性のある知見)は振り回せない。経営者が自らの経験からいきなり汎用的な知見を引き出してくれる名著もあるが、その手の本は仕事や人生の哲学を語り(その典型例が松下幸之助『道をひらく』)、経営の実際に踏み込まない。「鬼」というよりは「神」になってしまう。
本書はまさに「鬼に金棒」。経営の鬼である著者が金棒をぶんぶん振り回してくる。迫力があるのはもちろん、経営に携わる人にとって尋常ならざる普遍的有用性がある。経営とは結局、因果関係の論理の束である。著者はそれを「因果律」という。著者が体得した因果律が抽象化され、固有名詞がそぎ落とされ、本気になれば誰もが経営の文脈で適用できる知見が紡ぎ出される。
本書のヤマ場はいくつもある。産業財商社「ミスミ」が国際化の勝負に出る4章はそのーつだ。初めての挑戦に米国の前線は混乱を極める。著者は手綱を引いたり(近視眼的な成功にこだわる現場に一段と高い達成目標を与える)緩めたりしながら(この「緩め方」がすごい。少しでも早く事業を立ち上げようと前のめりになる現場の意に反して、あえて戦略の実行を大幅に遅らせるのだ)、非連続的な成長軌道に乗せていく。経営の修羅場を踏み越える中で獲得された因果律を見抜く力にしびれる。
日本経済の停滞の根本的原因は経営者人材の枯渇にあると著者は言う。その情熱には年季が入っている。驚くべきことに、ミスミ社長就任時に「社長就任の第一の目的は経営人制の育成」と言い切っている。全く教科書的な構成でも書き方でもないが、これこそ最高の経営の教科書だ。
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