書評
『フリーター、家を買う。』(幻冬舎)
あきらめなければ間に合う
就職氷河期といわれて久しい今日(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2009年)。親のすね、いや、ひざまでかじっているフリーターの主人公が一念発起して家を買うという物語。「仕事」の意味を主人公の成長とともに考えさせてくれた。主人公は就職した会社を三カ月で辞めた。「ここは俺の場所じゃない」。スタート位置を間違えた、と退社したが、新しい「俺の場所」は見つからない。とりあえず仮の職場を転々とすることに。
「まだまだ若い。まだまだ大丈夫」「本気になればきっとどうにかなる」と自分に暗示をかける一節は、自分を受け入れてくれない世間が悪いという自分本位な若者らしいぼやきだ。そんなある日、母が重度のうつ病にかかっていることが発覚する。
嫁いだ姉が実家に乗り込み、母の異変に気づかなかった父と弟を罵倒する場面は痛快。
母の背負ったストレスの大きさを姉から知らされ、これまでの自分の能天気さを痛感する主人公。ようやく本気で動き出すが、世の中は甘くなかった。自分の正しさや価値観、道理は再就職ではむしろ邪魔になることがある。かといって自分を押し殺し、何の考えもないままでは面接で見破られる。我慢のしどころ、主張のしどころで主人公も悩むが、答えは出ない。
就職活動とは基本的に相手に選ばれるものだろうが、働く主体はやはり自分だ。母の病気の発症を気づけなかった自分を責め、間に合わなかったけどできる限りのことをすると決めた主人公は、自分の過ちを認めたうえであきらめない覚悟と責任を持った。一度どん底に沈んだ人は強い。次は浮かびあがるしかないからだ。
衝突してばかりの父と同じ「社会人」として通じ合っていく過程も心温まる。履歴書や面接の作法を教わる場面では、面接する側の人材の選び方がわかって興味深い。
就職難の切実さを描きながらも、読後元気がわいてくる。そう、あきらめなければ間に合うのだ。
【この書評が収録されている書籍】
初出メディア

共同通信社 2009年9月24日
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