前書き
『歴史の風 書物の帆』(小学館)
まえがきに代えて
本書は、一九九五年までに書きためた書評を中心とし、それに読書エッセイを加えて一巻とした本だが、書評はおおむね、次のような原則にのっとって書かれている。①最初のページから最後のページまで飛ばし読みをせずに、注も含めて一冊すべてを読んだうえで書評する。
②読者としてはある程度の知的好奇心はもっているが、対象としている本のジャンルに関しては、まったく素人のような人を想定している。イントロはそうした読者に訴えかけるつもりで書かれている。
③基本的に、書評を引き受けた以上、たとえそれが自分の選択した本でなくとも、読者に、書店で一度は手に取ってみることを勧める方向で書評する。ただ、本として完成度に問題のある場合は、それを指摘することをためらわない。
④著者の執筆意図と主張を汲(く)み取りながら、なによりも、内容を的確に要約するよう心掛ける。様々な傾向のエッセイを一冊にまとめた本の場合には、その中で著者の主張や個性が最も色濃く滲(にじ)み出ているエッセイを中心にして取り上げる。
⑤原著の文体や肌合いを知ってもらうため、あえて引用は多めにする。理想をいえば、引用だけで書評が成り立つようにしたい。引用すべき箇所がうまく捜し出せたら、書評としては、その使命を半ば果たしたといえる。
⑥評価は、その本の絶対的価値よりも、相対的価値に比重をかける。いいかえれば、これまでに出版された他の本と比べてオリジナルな部分があればその点を評価し、その上で、できるなら、その本がどのようなポジションに位置するのかを明らかにする。一定の水準に達してはいても、二番煎じ的な内容の本は選択を避ける。
⑦同時に、思想的統一性、文体の巧拙、構成のバランス、読みやすさなどといった、フォルムの面も重視する。表現だけが難解な本は取り上げない。
⑧本を厚さで判断しない。注の多さに平伏しない。要は、質の問題である。
⑨書評としてそれだけで完結した読み物となるように努める。
⑩書評子が本を評価する以上に本によって書評子が評価されることを肝に銘じておく。
⑪もちろん、以上の原則は①を除いて努力目標であり、必ずしもすべての書評で守られているわけではない。
書評の長さは、発表されたメディアによって割り振られたものなので、本の評価とはかならずしも一致していない。また、初出時の原稿に多少修正を加えたものもあることをお断りしておく。
なお、アラン・コルバン『においの歴史』と、マルレ画、ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー文『タブロー・ド・パリ』は、拙訳によるものなので書評ではなく、紹介という形になるが、他の本との関連で、この二書があった方がガイドブックとして便利だと判断したため、あえて収録することにした。
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