書評
『恋するオペラ 集英社新書』(集英社)
オペラの基本は「恋愛」
私にとって今年はモーツアルト強化年間である(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2002年)。正月から毎日モーツアルトばかり聴いている。ピアノ曲や弦楽四重奏、交響曲と聴いてきて、困ったのがオペラだ。昔からオペラとミュージカルは苦手だった。ところが、「ドン・ジョバンニ」と「フィガロの結婚」を聴き始めたら……いいではないか。日々のモーツアルト漬けの成果か、とても心地よい。これを機会に、いっちょオペラに目覚めてみるか。というわけで金窪周作の『恋するオペラ』を読んでみた。この本、オペラを知らなくても面白い。「オペラには私たちの日常にはないすべてがあります」「オペラが面白いのはメロドラマであるからです」という著者によると、オペラの基本は恋愛ドラマ。さまざまな恋愛のかたちをオペラで辿りながら、女の一生を描いてしまおうという本である。モーツアルトの「コシ・ファン・トゥッテ」やロッシーニの「セビリアの理髪師」で若い娘の恋心を語り、ヴェルディの「椿姫」で大人の恋を、シュトラウスの「ばらの騎士」で青年と熟女の恋を語る。章とびらには池田理代子によるイラストを飾るこりようである。
作品の内容だけでなく、成立背景や時代的位置づけもさらりと語ったうえで、著者自身による歌詞の意訳を載せるなど、構成もじつにうまい。私のように昨日までオペラが苦手だった者にもよく伝わる。「フィガロの結婚」がきわめて政治的な作品であることなどを読むと、フィッシャー=ディスカウの歌も違って聞こえてくる。
同じくオペラを解説した新書でも、砂川稔監修の『オペラの魔力』(青春出版社プレイブックス)はまったく性格が違う本だ。名作ガイドや人気歌手のガイドにページを割いている。読む楽しみでは『恋するオペラ』のほうが勝っているが、CDを買ったり舞台を見に行こうというにはこちらが役に立つ。というわけで、今回の文章、BGMはカール・ベーム指揮「フィガロの結婚」でした。
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