書評
『新版 歴史の中で語られてこなかったこと』(洋泉社)
ブランドイメージを大事に
スタートしたばかりの岩波アクティブ新書で盗用事件が起きた。岩波書店は『賢く使おうサプリメント』(工藤悠里著)の回収・絶版を決めた。一章の八割が他書からのパクリだったというから呆れるが、しかし、驚きはしない。これだけ新書がわんさか出るようになれば、なかには粗製濫造も交じるだろう、ずさんな編集だってあるだろう。文春新書でも盗用事件が続いた。高中公男『経済統合のパワーゲーム』(二〇〇一年)と、木村昌人『高橋是清と昭和恐慌』(一九九九年)だ。
そういえば、数時間のインタビューで作ったとしか思えない中身スカスカの新書も目立つ。
以前、斎藤美奈子も本誌で取り上げていたけれども、洋泉社の新書yではカバーどころか表紙や奥付でも著者名を間違えるという事件があった。『クラシック批評こてんぱん』の著者名が「鈴木淳史」ならぬ「鈴木敦史」となっていたのだ。しかもこの事件では、「注意書きへの注」という紙片が挟まっていて、そこには著者名が間違っていることは書いてあるものの、謝罪の言葉はひとつもない。居直りである。
網野善彦と宮田登の対談『歴史の中で語られてこなかったこと』も新書yの一冊。網野ファン、宮田ファンにとっては既知のことばかりであるけれども、対談の気安さからか、生々しさがあっていい。たとえば、ある文庫の解説で自分が批判されたことについて、網野が憤慨していたり。ところが読んでいてときどき既視感というか既読感があった。九八年に出た同名単行本の新書化だったのである。
「新書」というジャンルは一九三八年の岩波新書に始まる。岩波文庫が古典を扱うのに対して、同時代の書き下ろしを中心にするので「新書」と名づけられた。読者にも「新書は書き下ろし」というイメージがある。廉価版、普及版を出すのはけっこうだけど、その器として新書を使うのは、ちょっとずるいんじゃないか。もっとブランドイメージを大事にしないと、ね。
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