書評
『将軍家康の女影武者』(新潮社)
武将たちを陰で支える女性の秘められた戦い
経済的に十分な余裕があり、しかも一夫多妻が許されている。そういう状況であれば、男子たる者、華やかな閨房(けいぼう)を営みそうなものである。ところが戦国大名や織豊期の大名などを見てみると、夫人の数は思いのほか多くない。キリスト教徒でないにもかかわらず、明智光秀や石田三成のように、一夫一婦ということもある。武将たちが戦乱による血のたぎりに任せて女性を求める、という攻撃的なイメージは誤りで、そういう時代だからこそ家庭を大切にし、そこに安らぎや癒やしを求めるものなのだろうか。ただし天下人ともなると話は別で、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康は多くの妻妾(さいしょう)を蓄えた。分かりやすいのは秀吉で、とにもかくにもお姫様。出自へのコンプレックス丸出しで、織田家など武家名門のお姫様を好んだ。これに対して家康は一ひねりが必要。若い時分は子のある未亡人。中高年になると、逆に若い娘を近づけるようになる。未亡人の方は徳川家繁栄の礎となる子どもを確実に産んでくれそうな女性、という解釈で良さそうだ。一方で年を取るにつれ、自らが失った若さの価値が、彼の中で高まるのだろうか。
本書は56歳(人生50年の時代の56)の家康が側室に迎えた、於奈津(おなつ)の方の活躍を描く。没落した家に生まれた彼女は、ふとした契機で家康の目にとまり、その知力と胆力で寵愛(ちょうあい)を勝ち得ていく。家康は於奈津を関ヶ原の戦いや大坂の陣に帯同し、その意見に耳を傾けた。彼女は一身を敵兵の標的として、影武者の働きも示した。
戦いのない世を作るため、逆説的な言い方だが、女性も果敢に戦っていたのだなあ、と思い知る。「男」が強調される戦いの世での、「女性」の重みを知らしめる一冊になっている。
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