書評
『カコちゃんが語る 植田正治の写真と生活』(平凡社)
生きることは楽しい、信頼の根
生涯、鳥取県・境港で家族や地元の人をモデルに撮りつづけた植田正治の思い出を、残された作品の別バージョンや家族の撮った写真などを添えて、長女・和子が語り下ろす。ファンにはたまらない一冊だ。撮影現場の様子、仕事のスイッチが入る瞬間、撮影後の遊びなどとともに、家族や仲間が集っていることを何より大事にした植田の姿がいきいきと描かれる。褒められると写真をあげてしまい、ネガの管理も不得意だった植田、その手伝いを表から裏から引き受ける家族。ローカルな場所での写真一色の家族生活、これがなぜ国際的な評価を浴びてきたのか考えるのは、読者へのうれしい宿題だ。おやつ、遊び、手伝い、総勢13名のかわりばんこの食事……。ひとの信頼の根は、生きることは楽しいという感覚にあることを痛いほど教えられる。信頼があるからリハビリや看取(みと)りにおいても、きつくも軽くもものが言える。「可哀(かわい)そうなものは撮れない」という植田の言葉を思い出した。
朝日新聞 2013年4月14日
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