書評
『ドタバタ関ヶ原』(柏書房)
武将たちの人間くささを新たな知見と共に活写
関ヶ原の戦いには、天下分け目と称されるにふさわしく、いろいろな問題点があり、エピソードがある。本書はそのエピソードの方を、おもしろく、わかりやすく、紹介している。著者の長谷川ヨシテル氏は、「れきしクン」としてテレビに登場するタレントであり、もともとは芸人としてデビューした経歴をもつ。ならばよくあるタレント本の一冊で、エンタメとしての読み物にすぎぬだろうと高を括(くく)っているとさにあらず、中味は正真正銘の本格派である。しっかりと歴史研究の進展を吸収し、新しい知見を随所にちりばめている。
たとえば、薩摩の猛将、島津義弘は3000(1500とも)の兵を率いて西軍陣営に加わった。西軍の敗北が決定すると、「島津の退(の)き口」として知られる苛烈な撤退戦を展開したことは有名である。ところが、彼ははじめ、徳川家康の伏見城に入城しようとした。つまり東軍に味方しようとしたのだが、伏見城の留守を預かる鳥居元忠に拒絶され、やむなく西軍に属した。そう歴史通は理解している。
ところが長谷川氏はこれに異を唱える。根拠となる文書を紹介し、実は義弘は反家康グループの主要メンバーだったと指摘する。当時の島津家内部を分析すると、家の実権を握っていた島津義久(義弘の兄)vs.義弘という図式となる。一方に反・豊臣の義久と保守派家臣たち、対して一方に、島津領の検地を実施した石田三成と近い義弘、という整理はまことに明快である。長谷川氏の見解は、学問的にも十分な説得力をもつのだ。
著者は読者のニーズに応えよう、読者を満足させよう、というサービス精神に溢れている。本書も「かゆいところに手が届く」構成になっている。楽しく歴史を知るのに好適。
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