書評
『新選組粛清録』(河出書房新社)
正義の剣客集団による非道な所業の実態とは
科学としての歴史学は、「精度の高い証拠」に基づかねばならない。「精度の高い証拠」とは事件や事象と同時代に書かれた文書や、日記である。後代に作成された歴史書は格が落ちるし、軍記物のような物語はさらに一つ確からしさが下がる。そもそも明治の初め、日本史の叙述が試みられたとき、歴史編纂(へんさん)の職にあった重野安繹(やすつぐ)は、物語にしか見えない話は採用すべきでないと主張した。同僚の川田剛は、物語もできるだけ拾うべきだと説いた。論争は重野が勝ってのち帝国大学教授となり、川田は職を辞した。厳密な歴史学か、物語を許容すべきか。この論争はかたちを変えて、現代にもつながっている。
本書は歴史愛好者に人気の高い新選組のリアルをあますところなく描くものである。新選組といえば幕末の京都で、勤皇の浪士を過激に取り締まった剣客の集団であると認識されている。鬼の副長・土方歳三、若き天才剣士・沖田総司などには熱烈なファンがいる。ドラマなどでは所謂(いわゆる)イケメンが演じる役どころである。一昔前、沖田のファンが彼の墓所にトラックで乗り付け、墓石を運び出そうとしたという驚くべき事件も起きた。
だが、リアルの新選組は、物語の新選組とは異なる姿をしていたようだ。そもそも彼らは警察組織であるから、問答無用で勤皇の志士を斬ったりはしない。捕縛を諦めてやむなく斬った人数は二十数名。一方で、武士道を鉄の規律とした彼らは、それに背いた身内に容赦なく死罪を申し渡した。その数は四十数名。本書は隊士の粛清のありさまを描きながら、新選組の実像に迫る。新選組ファンならば、等身大の近藤勇や土方を知っておくべきである。新選組研究の第一人者による本書は、必読の歴史書になっている。
ALL REVIEWSをフォローする








































