書評
『アメリカ海兵隊―非営利型組織の自己革新』(中央公論新社)
自己革新する卓越した組織
小さな本の中に、組織を考えるための重要な要素がぎっしりとつまっている。様々のアメリカ映画を通じて、我々日本人にとっても馴染(なじ)み深いアメリカ海兵隊。著者はこれを自己革新組織と捉(とら)え、一方で軍事史的な展開を試みながら、他方で組織論的な考察を行う。アメリカ海兵隊の歴史は、そのままアメリカの歴史でもある。もっとも当初から精鋭部隊としてつくられたわけではない。独立戦争時に本国イギリスの海兵隊を真似して創設したというにすぎないのだから。むしろ十九世紀から二十世紀初頭にかけての鋼鉄艦の時代には、帆船に適合的だった海兵隊は不要であると言われ、第一次世界大戦で名声を博した時も陸軍支援部隊としてであり、そこから海兵隊の陸軍への吸収論が出たとしても不思議ではなかった。
この状況を画期的に変えたのは、第一次世界大戦後の西太平洋の軍事的不安定性及び日米戦の不可避性の認識によるものだった。ここに前進基地の防御から奪取へと戦略的転換が行われ、「水陸両用作戦」という独自の概念を生み出し、それを海兵隊の生存領域(ドメイン)とすることに成功する。そして日米戦争を勝ち抜いた海兵隊は、それ以後も絶えざる存立の危機をむしろバネとして、ヘリコプターの導入や即応部隊への転換、そしてベトナム戦争以後は空陸統合思想に基づく全世界的な有事即応部隊へと存在理由を次々と更新していく。
海兵隊に関わった人々の柔軟な思考と、概念を現実化していく能力はまことにすばらしい。その際海兵隊組織の能力が、すべての要素を平等に扱うのではなく、中心的な一つの機能(ライフルマン)を明確にし他のすべての機能との有機的関係を形成させることから生ずると、説く著者の分析は説得的である。
翻って日本の官僚制乃至(ないし)官僚制的組織は、はたして自己革新ができるのであろうか。海兵隊のように、相互に矛盾する要素をダイナミックに組み合わせながら使いこなしていくだけの器量をもったソフトの人材面に徹底的に欠けているのが、実情とは言えまいか。
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