書評
『国際平和協力入門』(有斐閣)
実務官の多角的PKO論議
今はやりの言葉の一つにPKOがある。日本語で国連平和維持活動という。だがその実態は、ジャーナリズムで目につく記事を拾い上げていっても、なかなか理解し難い。いかにすればPKOの全体像を知りうるか。本書の出版は、その点でまことに時宜を得たものであった(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆年は1995年)。一読してわかるのは、総理府・外務省でのPKOの実務体験者が相互に議論を尽くした上で執筆しており、平易かつ明快にPKOへの実態にそくしたアプローチを試みると共に、これからのPKO論議のたたき台となりうるよう、多角的な議論への発展性を考慮していることだ。
日本でPKOを論ずれば、たちまちにして憲法の問題にぶつかる。編者は総論とも言うべき第一章の中で、安易な憲法改正を戒めると同時に、現行憲法の柔軟な運用を基軸にすえる。その上で軍事大国化への道を歩まず、しかも国際平和協力へ積極的に貢献するにはどうすべきかを問いかける。これに答えるべき各論は、国際編(二章~四章)と日本編(五章~六章)に大別される。
国際編は、さながら国際平和協力百科の趣をもつ。ガリ総長による「平和のための課題」を焦点とする国際平和協力の論争の深まりのプロセスや、カンボジア・ソマリア・旧ユーゴスラビアなどにおける活動の実態、それに世界各国の対応状況が淡々とした筆致で述べられる。とりわけ国連による「暫定統治」を真正面からとりあげたカンボジアの例は、およそ統治とは何かという普遍的命題にまで議論が広がる可能性を持ち、有益であった。
では日本編はどうか。「国際平和協力法」の制定過程、次いでアンゴラ等へのPKO活動への参加の具体例が検討された後、今後の日本の課題へ及ぶ。
ここまで読み進むと、スタティックな抑制された記述の中にひそんでいる、実は国際平和協力が投じる問題のあまりの大きさに気づかざるをえない。憲法や政治・軍事上の論点を含めて、つきつめればあちこち課題だらけというのが、正直な感想だ。
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