書評
『フリーズ! ある日本人留学生射殺事件』(集英社)
服部君への同情を変えたもの
十六歳の服部剛丈少年が、ルイジアナ州バトンルージュでロドニー・ピアーズに射殺されたのは昨年十月十七日だから、まだ一年と少しである(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆年は1993年)。五月二十三日にピアーズ被告に陪審員全員一致による無罪評決が下され、もうこうして裁判の詳細を伝える本を出すことができるのだからうらやましい。しかし、うらやむのはそこまで。本書には、やり手弁護士が市民から選ばれた陪審員を巧みにレトリックの罠(わな)に陥れていく様子が克明に描かれている。州ごとに異なるアメリカの裁判制度の問題点も指摘されている。なるほど何事も弁護士次第という話は知っていたがこれほど如実に示されると銃の野放しを含めアメリカン・デモクラシーについて考え込まされる。事件が起きたばかりのころ、バトンルージュの世論は服部少年に同情的だった。だが静かで保守的な田舎町に日本からの取材陣が押し寄せると様相は一変する。事件そのものより、銃規制を日本のマスコミが大きく取り上げることのほうがビッグニュースとなってしまうのだ。陪審員のなかから選ばれた陪審長のジュディス・クーリー(女性)は、無罪評決のあと地元紙の記者にこう述べた。
「他の国から来て、私の国をどうしろ、こうしろと言うのを聞くと腹が立つの。日本国内で何が起きようと、私には関係ないわ。戦争に勝ったのはアメリカでしょう。今度は、日本がアメリカに意見しようっていうの?」
著者の平義克己は、服部少年のように高校生のときアメリカで留学生活を送りハロウィーン・パーティーにも招待された。それからアメリカが好きになり二十数年アメリカ暮らしをしている。弁護士資格も取りアメリカ人に成り切っていたが、ガールフレンドが事故死した。高速道路の出口を逆走してきた加害者の白人女性はたった一年の実刑。事件に興味を持ち現地を訪れ、地元紙記者のティム・タリーの協力を得た。共著となっているが一種の謙遜(けんそん)で、平義自身のアメリカ体験が色濃く投影された作品である。
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