書評
『明治大正見聞史』(中央公論新社)
正史にはない市井の見聞記
東京朝日新聞の雑報記者として口語体で記事を書いたのをはじめ、「早稲田文学」記者として健筆をふるい、小説から風俗戯評までの幅ひろい分野で、諷刺的な作品を精力的に発表した生方敏郎の業績は、戦時中に軍国主義に抵抗し、個人雑誌「古人今人」を発行しつづけたことなどとあわせて、まだまだ掘りおこされる必要がある。「明治大正見聞史」は大正十五年に春秋社から刊行された回想記で、市井の風俗や小事件などをとおして、時代の動きを痛烈に諷したものであり、とくに「乃木大将の忠魂」では乃木神話のベールをはぎとり、「大震災後記」では流言の裏にひそむ力の存在を暗示し、貴重な記録にまとまっている。
二十世紀を前にして人々がどのように反応したかを知るためには、「明治時代の学生生活」を読めばよいし、大震災当日の巷の状況を知りたければ「関東大震災」を見ることだ。ともかく正史にはない興味ぶかい市井の見聞記である。
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