書評

『チャーチル伝』(作品社)

  • 2026/02/16
チャーチル伝 / フランソワ・ケルソディ
チャーチル伝
  • 著者:フランソワ・ケルソディ
  • 翻訳:大嶋 厚
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(736ページ)
  • 発売日:2025-12-24
  • ISBN-10:486793125X
  • ISBN-13:978-4867931257
内容紹介:
生誕150年、没後60年膨大な資料と多数の関係者の証言をもとに、あまり知られていない若き日々にページをさき人生を描き切る世界的権威による決定版評伝!ウィンストン・チャーチル自身、… もっと読む
生誕150年、没後60年

膨大な資料と多数の関係者の証言をもとに、
あまり知られていない若き日々にページをさき人生を描き切る
世界的権威による決定版評伝!

ウィンストン・チャーチル自身、このように書いている。「決して忘れてはならないのは、重大な誤りを犯した場合、これは最も思慮深い決定よりも有益である可能性が十分にあるということだ」。少なくとも、この文章の筆者に関する限り、この逆説的な主張は、完全に正しかった。――本文より

【目次】
日本語版への序文
はじめに/第1章 運命のいたずら/第2章 優秀な劣等生/第3章 涙よさらば/第4章 鉄兜とペン/第5章 綱渡りのジェントルマン/第6章 権力なき想像力/第7章 ワンマンバンド/第8章 帝国の守護者/第9章 嵐の接近/第10章 再生/第11章 ソリスト/第12章 指揮者/第13章 デュオ/第14章 第二ヴァイオリン/第15章 不協和音/第16章 永劫回帰/第17章 永遠への回帰/結論/原注/史料・主要参考図書/訳者あとがき/『チャーチル伝』解説(君塚直隆)/索引

一九四一年一二月七日晩の吉報

小学校六年生のとき三津田健が吹き替えていた「チャーチルの大戦回顧録」をテレビで見て『第二次大戦回顧録』の抄訳二巻本を買ってもらったのが読書生活の始まりで、以後、チャーチルへの関心は六五年以上続いている。

この評伝でまず驚くのは両親の子供への無関心である。スペイン継承戦争の活躍で広大なマールバラ公爵領と邸宅(ブレナム宮殿)を与えられた軍人ジョン・チャーチルを先祖に持つ父ランドルフ卿は元財務大臣であり、母親ジェニーは愛人を何人も抱えて派手な社交生活を送った女性だが、ともに子供の教育にはまったく無関心で、チャーチルは育児係に育てられた。課目の好き嫌いが激しかったため劣等生だったが、図書館の蔵書を読みつくした大読書家でもあった。

士官学校を出て騎兵少尉となるが、実戦への渇望からスペイン軍のキューバ反乱鎮圧に雑誌特派員として参加、ジャーナリストとして頭角を現し、英国植民地で軍人・戦場ジャーナリストとして活躍。二六歳で庶民院議員となる。だが保守党の方針に従わず自由貿易を主張、自由党内閣で植民地次官に就任するとボーア人宥和(ゆうわ)政策で業績をあげるが同時に悪癖も出てくる。「生涯を通じて、ウィンストンは関係がないと思われる問題に首を突っ込むことになる」

商務大臣時代には防諜(ぼうちょう)機関を立ち上げ、内務大臣、海軍大臣としてアイルランド問題や海軍航空隊創設などで業績を残すが、真骨頂が発揮されたのは第一次世界大戦が勃発したときだった。「行動は解放であり、祖国と国王の代理人として闘技場入りするのは、幼少期にまでさかのぼる夢であった」。チャーチルは戦争指揮に喜びを見出(みいだ)す人物だったが、指揮者なのにヴァイオリンやトランペットを演奏したがる欠点もあった。これは「明らかに戦略家としてのウィンストン・チャーチルの弱点の一つを示している」。そのせいかガリポリ上陸作戦で惨敗、海相辞任を余儀なくされたが、軍需大臣として再入閣するや、戦車部隊や航空隊の整備で戦況打開に貢献する。「ウィンストンはいかにもプロの戦略家ではない。しかし、ひらめきのある、アイデアにあふれるアマチュアである」

戦後は陸相兼空軍相として軍事予算に大ナタをふるう一方、ロシア内戦への介入を主張、「労働党からは世界のプロレタリアの不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だとされた」が、アイルランド自由国の誕生には尽力した。しかし戦後は落選の憂き目にあい、南仏で先祖マールバラ公の伝記の執筆に専念した。保守党に復党後も総選挙では連続的に落選した。

チャーチル復活はナチが政権奪取し、戦争の危機が迫ってからである。チェンバレンの宥和政策を猛烈に批判、強硬策を主張した。だが、出番が訪れたのは一九三九年九月一日にポーランド侵攻が始まってからである。海相として入閣後、一九四〇年には首相に就任、絶望的な状況で戦争を指導した。戦争に勝つ唯一の方法は米国を参戦に導くことと信じたが、一九四一年一二月七日の晩に吉報が届く。「これで、最終的には勝利は我々のものだ!」。小学校六年で『第二次大戦回顧録』を読んだときもこれが最も心に刺さった言葉だった。

英雄を美化せず、敬意も失わないフランス人歴史家による公正な伝記である。
チャーチル伝 / フランソワ・ケルソディ
チャーチル伝
  • 著者:フランソワ・ケルソディ
  • 翻訳:大嶋 厚
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(736ページ)
  • 発売日:2025-12-24
  • ISBN-10:486793125X
  • ISBN-13:978-4867931257
内容紹介:
生誕150年、没後60年膨大な資料と多数の関係者の証言をもとに、あまり知られていない若き日々にページをさき人生を描き切る世界的権威による決定版評伝!ウィンストン・チャーチル自身、… もっと読む
生誕150年、没後60年

膨大な資料と多数の関係者の証言をもとに、
あまり知られていない若き日々にページをさき人生を描き切る
世界的権威による決定版評伝!

ウィンストン・チャーチル自身、このように書いている。「決して忘れてはならないのは、重大な誤りを犯した場合、これは最も思慮深い決定よりも有益である可能性が十分にあるということだ」。少なくとも、この文章の筆者に関する限り、この逆説的な主張は、完全に正しかった。――本文より

【目次】
日本語版への序文
はじめに/第1章 運命のいたずら/第2章 優秀な劣等生/第3章 涙よさらば/第4章 鉄兜とペン/第5章 綱渡りのジェントルマン/第6章 権力なき想像力/第7章 ワンマンバンド/第8章 帝国の守護者/第9章 嵐の接近/第10章 再生/第11章 ソリスト/第12章 指揮者/第13章 デュオ/第14章 第二ヴァイオリン/第15章 不協和音/第16章 永劫回帰/第17章 永遠への回帰/結論/原注/史料・主要参考図書/訳者あとがき/『チャーチル伝』解説(君塚直隆)/索引

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毎日新聞 2026年2月7日

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