書評
『高い城・文学エッセイ』(国書刊行会)
自伝的要素織り込み親しみ
スタニスワフ・レムのコレクションが刊行中だ。前回配本された『ソラリス』の新訳も期待に違わぬものだったが、今回の小説は、レムの異質な側面を描いていて、面白い。まず、これは自伝的要素が強い。『高い城』という名前のこの小説は、全体の三分の二をレムの記憶の再現に費やしている。生まれ育った街の様子、読んだ本、医師だった父からの影響など。レムはたぶんほとんど虚飾なく、淡々とそれを並べ立てていく。と、突然、自伝だったはずの文章は小説の領域に突入する。
レム少年はギムナジウムで「身分証明書」の作成に勤しむ。あらゆる種類の身分と権限を与える証明書。授業中は、それを作ることに没頭するのだ。王様や文書起草官の身分証明書を作って、記名しなかった。所有者をあえて空欄にすることで、奇妙な職業の奇妙な場所へと架空の旅をすることができたのだ。
レムはこれまで一部の熱狂的なファンにのみ読まれてきた。『完全な真空』のような、架空の本の書評集など、衒学(げんがく)趣味の書物にみえたかもしれない。だが、この本の中のレムには、最大級の親しみを覚える。沼野充義ほか訳。
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