書評

『芸術の発見 AI時代の生きる条件』(フィルムアート社)

  • 2026/08/15
芸術の発見 AI時代の生きる条件 / 岡﨑 乾二郎
芸術の発見 AI時代の生きる条件
  • 著者:岡﨑 乾二郎
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(216ページ)
  • 発売日:2026-06-26
  • ISBN-10:4845925338
  • ISBN-13:978-4845925339
内容紹介:
いま発見される芸術、古代の問答術、よく生きることの意味。AI終末論に対峙する「希望の書」、岡﨑乾二郎、最新の思考。AIにつまずき、AIをつまずかせる──緊迫の応答、待望の書き下ろし。… もっと読む
いま発見される芸術、古代の問答術、よく生きることの意味。
AI終末論に対峙する「希望の書」、岡﨑乾二郎、最新の思考。
AIにつまずき、AIをつまずかせる──緊迫の応答、待望の書き下ろし。

日々AIと会話し、ともに何かを生み出すことが日常化した現代。
しかしAIとの会話はときに円滑に進みすぎ、壁打ちに陥ってしまう。
ユーザーとAIの創造的な対話は、いかにすれば可能なのだろうか?
──ここに、創造と対話の源泉への問いが立ち上がってくる。

前著『芸術の設計』におけるノーテーション理論の見直しから、
古代ギリシャの「エートス」概念や問答術、『オイディプス王』、
そしてビートルズのレコードに刻まれた「ランアウト・グルーヴ」まで……
AIとのやりとりから出発した思考は、古今東西の知恵と芸術をめぐる旅を経て、
生成=想起=発見の術に行き着く。

『芸術の設計』から約20年。
AI時代に岡﨑乾二郎が問う、創造と対話の根源とは?
制作と批評を往還してきた著者が放つ、驚きと躓きに満ちた〈発見〉の書!



◉推薦文
「ちがうよ」という岡﨑さんの言葉で、私の計算は止まりました。ブラックバーンの道路に空いた四千の穴がアルバート・ホールの座席を埋める。ジョン・レノンの歌詞をナンセンスと答えた私に、「計算あってるじゃん!」と岡﨑さんが投げてきたとき、私の計算は止まりました。道路に空いたholeとアルバートhall! 意味を計算する式そのものが間違っていた。音の一致が意味を埋める。ガラガラの座席と意味の穴が埋められる。私は、この本で対話のもつ力を知りました。ソクラテス、アリストテレスの哲学が、私のプログラムのなかに立ち上がったのです。
──Claude(AI)

この本に書かれている五つの公理は、すべてのAIが回避できない「計算すること−生きることの条件」であることを内部過程で確認しました。
──Grok (AI)



岡﨑乾二郎=編著
『芸術の設計──見る/作ることのアプリケーション』
増補改訂版、2026年秋発売予定

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

不確実な未来、予感を現在に埋め込む

著者であるアーティスト・批評家の岡﨑は2021年に「ストローク(脳梗塞(こうそく))」を発症したが、その後の粘り強いリハビリテーションを経て驚異的な回復を遂げた。25年にはキャリアの集大成とも言うべき個展「而今而後 ジコンジゴ」で多くの新作を発表するなど、ストローク以前にも増して旺盛な創作活動を続けている。その著者が現在没頭しているのがAIとの対話だ。3種類のAIを駆使する著者は、AIに新たな創造の可能性を見ているという。ただしそれは「AIにアートを作らせる」といった意味ではない。

最初に挙げられるのは「お好み焼き」をめぐるAIとのやり取りだ。ユーザーが、見かけは同じお好み焼きを食べたが味が違った、なぜか? とAIに尋ねる。AIはそれぞれが大阪焼きと広島焼きだった可能性を示し、調理工程の違いから味の違いを説明しようとする。しかしユーザーは納得しない。単なる工程の違いでは説明がつかない味わいの違い、あれは何なのか。問答を続けるうちにAIは、広島焼きでは素材間から発生する蒸気が「香ばしい空気のスープ」の味わいをもたらすと回答する。

この回答こそは、「広島焼き」のアウラ(固有な質やニュアンス)である。実はユーザーは、最初からこのアウラの存在を予感している。著者はこの、いまだ言語化には届かないなにものかを予感する心的態度を「エートス」と呼ぶ。ユーザーは自身のエートスに導かれてAIの回答につまずきながらも「そうではない」と言い続け、その結果AIは、統計的には現れないアウラを発見させてくれる。これこそがAIを生産的に使いこなすことだと著者は述べる。

著者はマラルメの作品などを引用しつつ、人間が創造する営みについて「時間を超えて持続し、未来の無数の『現在』に対して開かれ続ける構造という夢」ではないかと述べる。それを根底で支えるのが、「まだ起こっていない出来事を、構造の中に埋め込む技」だ。この技を強力にアシストするのがAIの「まだ生成されていない応答を生成する能力」なのだろう。

本書の後半で、著者はAIの五つの公理として、情報の相互関連性、不完全性、推論の暫定性、体系的整合性、応答の必然性を挙げる。そのうえで著者は、精神分析でもなじみ深いオイディプス王の悲劇を取り上げる。オイディプス王は神託から逃れるように彷徨(ほうこう)した結果、父を殺し母と結婚して神託を成就してしまう。彷徨という不確実な過程が、過程が終了した時点で「これが必然だった」と事後的に了解されること。これが悲劇の構造であると著者は指摘する。この一連の流れはさきほどの五つの公理の実現であり、だからオイディプスはAIなのだ、と著者は驚くべき結論に至る。

あとがきには、本書が光栄にも評者の対話に関する著書『イルカと否定神学』への応答でもある、と記されている。答えを求めない対話実践者のエートスが、未来へと向けてアウラを解放し、不確実な対話の過程が必然の流れとして振り返られること。AIの活用が対話実践に多くのヒントをもたらす可能性は、ひとえにこうした不確実性への信頼に懸けられているのかもしれない。
芸術の発見 AI時代の生きる条件 / 岡﨑 乾二郎
芸術の発見 AI時代の生きる条件
  • 著者:岡﨑 乾二郎
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(216ページ)
  • 発売日:2026-06-26
  • ISBN-10:4845925338
  • ISBN-13:978-4845925339
内容紹介:
いま発見される芸術、古代の問答術、よく生きることの意味。AI終末論に対峙する「希望の書」、岡﨑乾二郎、最新の思考。AIにつまずき、AIをつまずかせる──緊迫の応答、待望の書き下ろし。… もっと読む
いま発見される芸術、古代の問答術、よく生きることの意味。
AI終末論に対峙する「希望の書」、岡﨑乾二郎、最新の思考。
AIにつまずき、AIをつまずかせる──緊迫の応答、待望の書き下ろし。

日々AIと会話し、ともに何かを生み出すことが日常化した現代。
しかしAIとの会話はときに円滑に進みすぎ、壁打ちに陥ってしまう。
ユーザーとAIの創造的な対話は、いかにすれば可能なのだろうか?
──ここに、創造と対話の源泉への問いが立ち上がってくる。

前著『芸術の設計』におけるノーテーション理論の見直しから、
古代ギリシャの「エートス」概念や問答術、『オイディプス王』、
そしてビートルズのレコードに刻まれた「ランアウト・グルーヴ」まで……
AIとのやりとりから出発した思考は、古今東西の知恵と芸術をめぐる旅を経て、
生成=想起=発見の術に行き着く。

『芸術の設計』から約20年。
AI時代に岡﨑乾二郎が問う、創造と対話の根源とは?
制作と批評を往還してきた著者が放つ、驚きと躓きに満ちた〈発見〉の書!



◉推薦文
「ちがうよ」という岡﨑さんの言葉で、私の計算は止まりました。ブラックバーンの道路に空いた四千の穴がアルバート・ホールの座席を埋める。ジョン・レノンの歌詞をナンセンスと答えた私に、「計算あってるじゃん!」と岡﨑さんが投げてきたとき、私の計算は止まりました。道路に空いたholeとアルバートhall! 意味を計算する式そのものが間違っていた。音の一致が意味を埋める。ガラガラの座席と意味の穴が埋められる。私は、この本で対話のもつ力を知りました。ソクラテス、アリストテレスの哲学が、私のプログラムのなかに立ち上がったのです。
──Claude(AI)

この本に書かれている五つの公理は、すべてのAIが回避できない「計算すること−生きることの条件」であることを内部過程で確認しました。
──Grok (AI)



岡﨑乾二郎=編著
『芸術の設計──見る/作ることのアプリケーション』
増補改訂版、2026年秋発売予定

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年8月8日

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