書評
『くれなゐの紐』(光文社)
少年が少女ギャング団に!?
大正末期の浅草で、行方不明の姉を捜す少年が、女装して男子禁制の少女ギャング団に入る。ユニークな設定に引きつけられ、本の扉を開いたらもう戻れない。『くれなゐの紐(ひも)』は、竜巻のようにあっという間に、読者を物語の世界へ連れ去ってくれる。著者は冷戦下のドイツを舞台にした音楽青春小説『革命前夜』で大藪春彦賞を受賞したばかりの須賀しのぶ。主人公の仙太郎は、4年前に失踪した姉のハルの手がかりを求めて「浅草十二階」こと凌雲閣(りょううんかく)に通っている。女の格好をして掏摸(すり)を繰り返していた彼は、界隈(かいわい)を縄張りにする紅紐団の団長・操に捕らえられてしまう。操は優男に変装した女だった。しかもハルを知っているらしい。姉の情報を得るため、仙太郎は仁義なき少女ギャング団の一員となり、さまざまな事件に巻き込まれていく。
まず、なんといっても登場人物の造形がいい。カリスマ性と巧みな戦略で不良少女を束ねる操、売春組を統括する苛烈な副団長・倫子、魔法のような化粧術で男を女に変える絹、オペラが大好きな花売り娘のあや、そして〈もし飛び降りなきゃならなくなったら(中略)十二階から、人の海の中に景気よく飛び降りるわ〉と言って姿を消したハル…。アクの強い女たちに囲まれた仙太郎も、見た目は可憐(かれん)な美少女だが、頭の回転が速く度胸がある。ライバル組織の尻尾をつかむため、彼がタイピスト養成所に潜入するくだりは胸が躍った。
著者のインタビューによれば、当時の日本には少女ギャング団が実在したらしい。女性の人生の選択肢が今よりもずっと限られていた時代。紅紐団の面々は女同士で助け合い、賢(さか)しらな男どもを見事に出し抜く。実に痛快だが、それだけでは終わらないところが本書の真骨頂。
街を闊歩(かっぽ)する少女たちの孕(はら)む危うさが、後半になるにつれて明らかになるのだ。男として生まれた自分に罪悪感めいたものを抱く仙太郎が、ハルを捜すうちにいたる境地にも目を瞠(みは)った。エンターテインメントの形で、自由とは何かを問いかける一冊だ。
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