書評

永江 朗「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>パーシヴァル・エヴェレット、木原善彦訳『ジェイムズ』(河出書房新社) <2>北村 紗衣『学校では教えてくれないシェイクスピア』(朝日出版社) <3>いしい しんじ『チェロ湖』(新潮社)

  • 2025/12/26

2025年「この3冊」

<1>パーシヴァル・エヴェレット、木原善彦訳『ジェイムズ』(河出書房新社)

<2>北村 紗衣『学校では教えてくれないシェイクスピア』(朝日出版社)

<3>いしい しんじ『チェロ湖』(新潮社)

<1>は『ハックルベリー・フィンの冒険』を逃亡した黒人奴隷ジム(ジェイムズ)の視点で語り直した長編。面白く、愉快で、ページをどんどんめくるうちにアメリカの近現代史がくるりと逆転する。マーク・トウェインを再読したくなる。

<2>は男子高校生を相手にした講義録。作品解説だけでなく、演出に挑戦したり、映画を見て批評を書いてみたり。読むこと・考えること・批評することの根源にまでいざなう。シェイクスピアを再読したくなる。

<3>は、いしいしんじ版『百年の孤独』だ。弦楽器の形をした大きな湖とそのほとりを舞台に、一族100年間のエピソードを連ねていく。手回し蓄音機の針で古い「ものがたり」を釣り上げるという仕掛けも楽しい。琵琶湖の歴史をもっと知りたくなった。

ジェイムズ / パーシヴァル・エヴェレット
ジェイムズ
  • 著者:パーシヴァル・エヴェレット
  • 翻訳:木原 善彦
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2025-06-27
  • ISBN-10:4309209289
  • ISBN-13:978-4309209289
内容紹介:
我が身を売られる運命を知り、生き延びるために逃げ出した黒人奴隷ジェイムズ。しかし少年ハックをともないミシシッピ川をくだる彼を待ち受けるのは、あまりに過酷な旅路だった。奴隷主たち… もっと読む
我が身を売られる運命を知り、生き延びるために逃げ出した黒人奴隷ジェイムズ。
しかし少年ハックをともないミシシッピ川をくだる彼を待ち受けるのは、あまりに過酷な旅路だった。
奴隷主たちを出し抜き、ペテン師を騙し返し、どこまでも逃げていくジェイムズの逃避行の果てに待つものとは──。
黒人奴隷ジムの目から「ハックルベリー・フィン」を語り、痛烈な笑いと皮肉で全世界に衝撃を与えた怪物的話題作。

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学校では教えてくれないシェイクスピア / 北村 紗衣
学校では教えてくれないシェイクスピア
  • 著者:北村 紗衣
  • 出版社:朝日出版社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(408ページ)
  • 発売日:2025-09-04
  • ISBN-10:4255013721
  • ISBN-13:978-4255013725
内容紹介:
16世紀末から現代までをタイムトラベル!舞台芸術史研究者で不真面目な批評家・北村紗衣×男子高校生の5日間の講義録。シェイクスピアに興味のなかった高校生たちが、「読むのが面白くなって… もっと読む
16世紀末から現代までをタイムトラベル!
舞台芸術史研究者で不真面目な批評家・北村紗衣×男子高校生の5日間の講義録。

シェイクスピアに興味のなかった高校生たちが、「読むのが面白くなってきました」「シェイクスピアに近づけた気がする」と。そう感じた理由は?

シェイクスピアと友達になれる6つのポイント

1.「無限の多様性」。暴力的な残酷描写や下ネタ満載。悲劇でもギャグやドタバタ満載。面白おかしいところと悲しいところが混在、緩急のメリハリがある作品群。

2.喜劇、悲劇、史劇、問題劇……、意外に多いロマンティック・コメディの恋愛ものなど、作品の全容がわかる!

3.良い人なのか悪人なのかもわからない。みんなシャレが好き。おしゃべりだけれど、観客が本当に知りたい物語の肝は絶対教えてくれない。登場人物たちの魅力と謎。

4.「巨匠」だからっておじけづかなくて大丈夫。シェイクスピアにも遠慮せず突っ込み、とことん楽しもう! 流通、経済効果、帝国主義――周辺をどこまでも探る。

5.シェイクスピアは「今の私たち」のために芝居を書いた! 政治の駆け引き、抑圧と差別、人種、ジェンダー……どの時代の、どの地域の人とも一緒に生きるシェイクスピア!

6.イラスト多数。登場人物が、役者たちや舞台が目に浮かぶ! 16世紀の舞台を、当時の人たちと一緒に見に行っているような気持ちを味わう。

シェイクスピアは、世の中とつながり、楽しいことを見つけ、人生を面白くするための「突破口」です。

【目次】

プロローグ

序幕 授業の前に シェイクスピアを「批判的に楽しむ」授業を男子校でやる理由

第一幕
第一場 生涯 シェイクスピアは学のない劇作家だった?
第二場 作品 暴力的で下ネタ満載。良い人か悪い人かもわからない
インタールード 研究室へようこそ! 参考文献を紹介します

第二幕
第一場 登場人物から作品を知る 十代の男の子が演じた女性登場人物たち
インタールード 調べものにウィキペディアを使うのは是か非か
第二場 英語 リズムの乱れは心の乱れ!
第三場 『ロミオ+ジュリエット』を見る うっかりミスや手違いで、若者たちが非業の死を遂げるのはなぜ?

第三幕
第一場 戯曲は設計図 頭の中に演出家を住まわせてみよう
第二場 舞台 大砲で火事に! 現在とは大違いのステージ

第四幕
第一場 『オセロー』を人種とジェンダーから読む 妻が本当に不倫していたら、オセローは何をするべき?
第二場 映画『O』を見る 舞台は二〇〇〇年頃のアメリカの高校。現代化する時の面白さと難しさ
第三場 批評とは 褒めるのもけなすのも証拠を挙げて
インタールード 三コママンガを描いて、自分の着目点を知ろう

第五幕
第一場 批評の講評 書きたいことを書けない時は
第二場 出版と読者 一冊一〇億円、ファースト・フォリオを探せ!
第三場 観客 シェイクスピアを未来に残していくのは私たちだ

エピローグ

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チェロ湖 / いしい しんじ
チェロ湖
  • 著者:いしい しんじ
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(912ページ)
  • 発売日:2025-10-30
  • ISBN-10:4104363057
  • ISBN-13:978-4104363056
内容紹介:
竿に括られた蓄音器の針が百年の物語を釣りあげてゆく――。心震わせる圧倒的大長篇! 弦楽器のかたちの湖にボートで漕ぎだす若い男。竿の先に括られた蓄音器のまっすぐな針が、一族四代、百年に… もっと読む
竿に括られた蓄音器の針が百年の物語を釣りあげてゆく――。心震わせる圧倒的大長篇! 弦楽器のかたちの湖にボートで漕ぎだす若い男。竿の先に括られた蓄音器のまっすぐな針が、一族四代、百年にわたる「ものがたり」を釣りあげる。野人めいたタフな祖父、蓄音器に魅せられた祖母、チェリストの母、神出鬼没の建築家の父、風の音、鳥のさえずり、レコード、オーケストラ、いくつもの歌……心震わせる圧倒的大長篇!

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年12月20日

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