書評
『カネが邪魔でしょうがない 明治大正・成金列伝』(新潮社)
野心と欲望剥き出しの企業家たち
大国をめざして経済成長の道をひた走った明治大正期の日本。「新興国・日本」のダイナミズムは、戦後の高度成長期の比ではなかった。戊辰戦争から、日清・日露戦争を経て、第一次大戦まで、商売人の魂に火をつけて、油を注ぐような”弩級の商機”が次々と生まれた。いつの時代も、新聞は「今こそ激動期」と叫ぶものだが、当時は本当の激動期。それと比べれば、今の日本の状況など無風状態に等しい。
本書に登場するのは、こうした環境変化をとらえて、一か八かの勝負に出た企業人たちだ。
企業家精神の本質はアニマル・スピリット、すなわち理屈抜きの野心と欲望にある。それは今も昔も変わらない。しかし、明治大正期の企業家は、その濃さが桁違い。裸一貫で海外貿易に乗り出す者、急激に伸びる個人消費を相手にマーケティングで鬼才を発揮する者、はたまた政治権力の中枢に分け入って軍需品で一攫千金を目論む者。それぞれが野心と欲望を剥き出して突進する。
今から見れば素朴でストレートな商売ばかりだが、それだけに、企業家と企業家精神の原点が鮮明に浮かび上がってくる。
ベタ凪の平成日本に生きる人にこそ読んでもらいたい。元気が出ること請け負いである。
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