書評
『少々おむづかりのご様子』(角川書店)
バカヤロ、胸がキュンとしちゃったじゃないか
竹中直人をはじめて見た時は驚いた。それから、映画「無能の人」の竹中直人を見てまた驚いた。監督としてもすごかった。そして、今回は『少々おむづかりのご様子』(角川書店)。エッセイ集である。読んで、またまたまた驚いた。面白いじゃないか、バカヤロー。それだけじゃないぞ、ひさしぶりに胸がキュンとしちゃったじゃないか、バカヤロー。ああ、それから帯には「日本エッセイスト・クラブ賞をオレによこせ!!」と書いてあるが、ここ最近日本エッセイスト・クラブ賞をとってるどの本よりずっといいから、賞をやっとくように。わかったね。ところで、この本の柱の一つは、「映画ファンとしての竹中直人」である。
『バートン・フィンク』でプロデューサーを演じたあの俳優、サイコーだったぜ。あんたのはいてる海パンがなんともかわいく、さすがコーエン兄弟のセンスを窺わせてくれる!!
しかし、ラストのあの水着の女優、あのキャスティング、納得いかねえ。デ・パルマの『ボディ・ダブル』のあの女優、よかったぜ。あんぐらいやってくれ!!
そうだそうだそうだ。おっとお、わたしが叫んでもしようがない。しようがないが、この「映画ファンとしての竹中直人」はすごくいい。だが、「役者としていろんな人と付き合う竹中直人」はもっといいのだ。
「オレは自分でレントゲンフィルムを見て、ガンを発見したんだよ、映画屋だからね」
と自慢気に語っていた。まだまだ全然大丈夫だ。ぼくはそんな監督に言った。
「監督もスリムになって若々しくなった感じですよ」
「竹中選手、オレはまだまだ撮るよ。今度は「三匹の侍」だ。テレビで知ってるよな、長門のやってた役だ。あれをあんたにやってもらうからね。ようござんすか、ようござんすね」
京都撮影所の夏の陽射しを浴びて、監督はまるで青年にでもなったようにぼくに話していた…….。
ああ、でも「若き日の恋する竹中直人」はもっとずっといい。
ジョージア・オキーフ――彼女からオキーフの写真を見せられて知っていたが、こういう顔をしている人なのだということを初めて認識した。愛し合っていたにもかかわらず、その写真集から受ける印象は実にクールなものだった。そして、オキーフの美しさにふるえた。
絶対に買って帰りたくなった。しかし当時の学生にしてみれば、とうてい手の届く金額ではなかった。1万円以上だったと思う。帰ってすぐ彼女にその話をした。
「ものすごく欲しいけど、買えないね」
と彼女はむせび泣いた。
いいねいいね。だがしかし、「監督石井隆や松田優作とつきあう竹中直人」はもっと魅力的だし、「真夏の炎天下、校庭で追っかけっこをする三村くんと安達先生を茫然と眺める竹中直人」はあまりにも素晴らしく、「恋愛問題が勃発するごとに宮沢章夫のアパートに行ってしまう竹中直人」はあまりにもキュートではないのか。しかし、きわめつけはというとⅡー⑧の「ピンクの長グツ」と「あとがき」に垣間見える「妻と娘といる『無垢な』竹中直人」であろう。
映画「無能の人」の原点はここにあったのか。竹中さん、新作の「119」が出来たら必ず見に行くからね。ああ、それからわしは新作『ゴーストバスターズ』の仕上げのためにしばらく休むからね。シー・ユー・アゲイン。(事務局注:本書評執筆は1994年頃)
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