書評
『どれくらいの愛情』(文藝春秋)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
白石一文。
もっ、思ってたとおりの御仁で一同爆笑。直木賞候補に挙がった『どれくらいの愛情』を読んで感服つかまつった次第なんですの。
三年前に離婚して今は仕事三昧の三十九歳女性が、女子大生の頃に書いた自分宛の手紙に励まされる「20年後の私へ」。死んだ大作家と担当編集者の〈私〉、それぞれの妻のメロドラマ臭い関係を描いた「たとえ真実を知っても彼は」。〈人間という動物にとって何より大事なものはスキンシップだ〉みたいな、安い箴言をしょっちゅう口走る単細胞男と不倫している二十代後半女子の心の声を綴った「ダーウィンの法則」。ぜんざいチェーン店を成功させた三十代の気のいいチビ男が、彼を振った水商売の女性の本当の気持ちを知るまでを描いた表題作。四篇の癒やし系ラブストーリーが収録されてるんですけど、「小説読んだことないっスよ。だって何書いてあっかわかんねっスもん」みたいなオツムテンテンの方だって、この小説なら大丈夫。ひらがなと若干の漢字が読めれば、ぜぇーったいに理解できるお話ばかりなんですもの。
というのも白石さんは親切で、テーマから登場人物の心理、何から何までぜぇーんぶ言葉で明らかにしてくださってるんです。きっと読者のことをとぉーってもバカになさってるのね、センセは。作者が一から十まで説明しなけりゃ、いわんとしていることがまぁーったく理解できないと思ってるんですわね。念には念を入れよとばかりに「あとがき」をくっつけて、自分の小説の読み方まで教えて下さってるんですのよ。
で、さすがは“目に見えないもの”が見えるスピリチュアル作家だけあって、あたくしのような腹黒ライターが書きそうな批判まで先取りして〈自らを知らず、また知ろうともしていない者だけが、他人をやすやすと傷つけることができる。他人をいかなる形にしろ傷つけてしまうことは、たとえそこにどんな大義名分があろうとも、単に未成熟で愚かな行為でしかない〉って牽制なさってるんですのー。他人の家が透視できるピーピング江原も真っ青。ま、しかし、目に見えないものを読者に想像させるのが小説なんでねーの? オデはそう思うんスけどね。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
オツムテンテンの方でも大丈夫! な親切すぎる小説
なんかね、想像はしてたんですの。腹ん中が真っ黒焦げ、心が焼死体のあたくしにはきっと感応できない、それはそれは清らかステキな小説をお書きになる方なんだろうなーって。白石一文。
もっ、思ってたとおりの御仁で一同爆笑。直木賞候補に挙がった『どれくらいの愛情』を読んで感服つかまつった次第なんですの。
三年前に離婚して今は仕事三昧の三十九歳女性が、女子大生の頃に書いた自分宛の手紙に励まされる「20年後の私へ」。死んだ大作家と担当編集者の〈私〉、それぞれの妻のメロドラマ臭い関係を描いた「たとえ真実を知っても彼は」。〈人間という動物にとって何より大事なものはスキンシップだ〉みたいな、安い箴言をしょっちゅう口走る単細胞男と不倫している二十代後半女子の心の声を綴った「ダーウィンの法則」。ぜんざいチェーン店を成功させた三十代の気のいいチビ男が、彼を振った水商売の女性の本当の気持ちを知るまでを描いた表題作。四篇の癒やし系ラブストーリーが収録されてるんですけど、「小説読んだことないっスよ。だって何書いてあっかわかんねっスもん」みたいなオツムテンテンの方だって、この小説なら大丈夫。ひらがなと若干の漢字が読めれば、ぜぇーったいに理解できるお話ばかりなんですもの。
というのも白石さんは親切で、テーマから登場人物の心理、何から何までぜぇーんぶ言葉で明らかにしてくださってるんです。きっと読者のことをとぉーってもバカになさってるのね、センセは。作者が一から十まで説明しなけりゃ、いわんとしていることがまぁーったく理解できないと思ってるんですわね。念には念を入れよとばかりに「あとがき」をくっつけて、自分の小説の読み方まで教えて下さってるんですのよ。
〈この五編の作品(トヨザキ註・単行本未収録含む)を通して私が描きたかったのは、一言で言うならば、/――目に見えないものの確かさ。/ということである〉
で、さすがは“目に見えないもの”が見えるスピリチュアル作家だけあって、あたくしのような腹黒ライターが書きそうな批判まで先取りして〈自らを知らず、また知ろうともしていない者だけが、他人をやすやすと傷つけることができる。他人をいかなる形にしろ傷つけてしまうことは、たとえそこにどんな大義名分があろうとも、単に未成熟で愚かな行為でしかない〉って牽制なさってるんですのー。他人の家が透視できるピーピング江原も真っ青。ま、しかし、目に見えないものを読者に想像させるのが小説なんでねーの? オデはそう思うんスけどね。
【この書評が収録されている書籍】
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