書評
『Crazy Rich Asians』(Corvus)
アメリカのファンから糾弾されている映画のホワイトウォッシングは数え切れないほどがある。黒人やヒスパニック系の俳優らが抗議する例はよくあるが、ここではアメリカ人のファンがネットで批判しているアジア・中東の例をご紹介しよう。
■『ドラゴンボール・エボリューション』(2009)
悟空を演じたのは白人のジャスティン・チャットウィン
■『エアベンダー』(2010)
原作は『アバター 伝説の少年アン』というアメリカで人気テレビアニメシリーズ。ファンの間では「アバター」と呼ばれていたが、同じときに『アバター』という別の有名な映画が公開されたため、アニメの実写化映画の題名から「アバター」という名前が消えた。登場人物全員がアジア人なのに、実写化映画では重要な俳優がすべて白人
■『ラスベガスをぶっつぶせ』(2008)
MITの数学の学生たちがラスベガスのカジノで一儲けしようと企んだ実話を元にした映画。主人公のモデルは中国系アメリカ人のジェフ・マーだが、映画ではジム・スタージェスが演じる白人になっている
■『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010)
原作は、アラビアンナイトのような世界観のゲーム。ペルシャ人(イラン人)のダスタン王子を演じているのは、ジェイク・ジレンホール
■『アロハ(Aloha)』(2015)
アジア系ハーフのはずのアリソン・イングが、なぜか生粋の白人エマ・ストーン
■『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)
攻殻機動隊のハリウッド版で、草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じた。日本では問題視されていないようだが、アメリカではホワイトウォッシングの典型的な例としてよく取り上げられる
この中でも、最も大きな意味を持つのが、『エアベンダー』(アバター)だろう。原作は2005年から08年にかけてテレビで放映された『アバター 伝説の少年アン(Avatar: The Last Airbender)』というアニメシリーズだ。
アメリカ原作のアニメとしては珍しく、古代中国を主体としたアジアの国々がモチーフになった世界観だ。登場人物はすべてアジア人だったのに、人種を超えてアメリカ中で人気になった。当時子どもだったファンは、その影響力を『ハリー・ポッター』シリーズと比べるくらいだ。
アニメシリーズ『アバター』に感情移入した子どもたちは、キャラクターを「アジア人」として見なかった。人種に関係なく、登場人物らは、自分の分身であり、友だちだったのだ。
アメリカの若者がこういった環境で育ったことはとても重要だ。
映画版の『エアベンダー』に対してアメリカのファンが怒った最大の理由は、「人種差別に対するポリティカル・コレクトネス」ではない。自分たちが家族のように愛してきたキャラクターと、彼らと一緒に過ごした大事な世界をめちゃくちゃにされたからだ。
ファンの意見を聞いていると、『ドラゴンボール・エボリューション』、『ゴースト・イン・ザ・シェル』、最近ではネットフリックスによる『デスノート』が『アバター』と同じカテゴリに入るようだ。
ハリウッドがホワイトウォッシングを続ける言い訳は「そうでないと売れないから」というものだ。『エクソダス:神と王』の監督リドリー・スコットはキャスティングの理由をVariety誌にこう説明した。
「もし主演男優が、どこそこから来たモハメドなにがしだと言ったら、(中略)これほど大規模な予算の映画は撮れない」そして「資金が得られないんだ。だから、(ホワイトウォッシングについての)疑問は最初から話題にもならなかった」
ハリウッドのプロデューサーや監督は、リドリー・スコットのように「主役を白人にしなければ売れない」と決めつけているが、実際には、無理にホワイトウォッシングした映画は興行的に失敗することが多い。
例に挙げた、『ドラゴンボール・エボリューション』や『アバター』はファンから「史上最悪の実写化映画」と呼ばれているし、日本では「スカーレット・ヨハンソンでいいんじゃないの?」という反応だった『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、アメリカでは評価が低い。
映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では100%が満点の「トマトメーター」が低いほど悪いのだが、上記の3作は、それぞれ14%、6%、44%の「腐ったトマト」評価を受けている。何よりも、興行的に失敗だった。
それとは対照的に、2016年に公開された『ドリーム』は、主要人物がすべて黒人女優なのに、予想を超えて大ヒットした。
原作は歴史ノンフィクション『Hidden Figures』。「ジム・クロウ法」時代の南部アメリカで、NASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)に計算士(人間コンピュータ)として雇用され、後にNASAで白人男性のエンジニアに混じって宇宙計画を陰で支えた黒人女性たちの実話だ。
映画では原作の黒人女性を黒人女優が演じたわけだが、ハリウッドの「売れない」という先入観を覆し、今年新たにアメリカと日本で拡大公開されて興行的に大成功を収めた。
(次ページに続く)
■『ドラゴンボール・エボリューション』(2009)
悟空を演じたのは白人のジャスティン・チャットウィン
■『エアベンダー』(2010)
原作は『アバター 伝説の少年アン』というアメリカで人気テレビアニメシリーズ。ファンの間では「アバター」と呼ばれていたが、同じときに『アバター』という別の有名な映画が公開されたため、アニメの実写化映画の題名から「アバター」という名前が消えた。登場人物全員がアジア人なのに、実写化映画では重要な俳優がすべて白人
■『ラスベガスをぶっつぶせ』(2008)
MITの数学の学生たちがラスベガスのカジノで一儲けしようと企んだ実話を元にした映画。主人公のモデルは中国系アメリカ人のジェフ・マーだが、映画ではジム・スタージェスが演じる白人になっている
■『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010)
原作は、アラビアンナイトのような世界観のゲーム。ペルシャ人(イラン人)のダスタン王子を演じているのは、ジェイク・ジレンホール
■『アロハ(Aloha)』(2015)
アジア系ハーフのはずのアリソン・イングが、なぜか生粋の白人エマ・ストーン
■『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)
攻殻機動隊のハリウッド版で、草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じた。日本では問題視されていないようだが、アメリカではホワイトウォッシングの典型的な例としてよく取り上げられる
この中でも、最も大きな意味を持つのが、『エアベンダー』(アバター)だろう。原作は2005年から08年にかけてテレビで放映された『アバター 伝説の少年アン(Avatar: The Last Airbender)』というアニメシリーズだ。
アメリカ原作のアニメとしては珍しく、古代中国を主体としたアジアの国々がモチーフになった世界観だ。登場人物はすべてアジア人だったのに、人種を超えてアメリカ中で人気になった。当時子どもだったファンは、その影響力を『ハリー・ポッター』シリーズと比べるくらいだ。
アニメシリーズ『アバター』に感情移入した子どもたちは、キャラクターを「アジア人」として見なかった。人種に関係なく、登場人物らは、自分の分身であり、友だちだったのだ。
アメリカの若者がこういった環境で育ったことはとても重要だ。
映画版の『エアベンダー』に対してアメリカのファンが怒った最大の理由は、「人種差別に対するポリティカル・コレクトネス」ではない。自分たちが家族のように愛してきたキャラクターと、彼らと一緒に過ごした大事な世界をめちゃくちゃにされたからだ。
ファンの意見を聞いていると、『ドラゴンボール・エボリューション』、『ゴースト・イン・ザ・シェル』、最近ではネットフリックスによる『デスノート』が『アバター』と同じカテゴリに入るようだ。
ハリウッドがホワイトウォッシングを続ける言い訳は「そうでないと売れないから」というものだ。『エクソダス:神と王』の監督リドリー・スコットはキャスティングの理由をVariety誌にこう説明した。
「もし主演男優が、どこそこから来たモハメドなにがしだと言ったら、(中略)これほど大規模な予算の映画は撮れない」そして「資金が得られないんだ。だから、(ホワイトウォッシングについての)疑問は最初から話題にもならなかった」
ハリウッドのプロデューサーや監督は、リドリー・スコットのように「主役を白人にしなければ売れない」と決めつけているが、実際には、無理にホワイトウォッシングした映画は興行的に失敗することが多い。
例に挙げた、『ドラゴンボール・エボリューション』や『アバター』はファンから「史上最悪の実写化映画」と呼ばれているし、日本では「スカーレット・ヨハンソンでいいんじゃないの?」という反応だった『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、アメリカでは評価が低い。
映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では100%が満点の「トマトメーター」が低いほど悪いのだが、上記の3作は、それぞれ14%、6%、44%の「腐ったトマト」評価を受けている。何よりも、興行的に失敗だった。
それとは対照的に、2016年に公開された『ドリーム』は、主要人物がすべて黒人女優なのに、予想を超えて大ヒットした。
原作は歴史ノンフィクション『Hidden Figures』。「ジム・クロウ法」時代の南部アメリカで、NASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)に計算士(人間コンピュータ)として雇用され、後にNASAで白人男性のエンジニアに混じって宇宙計画を陰で支えた黒人女性たちの実話だ。
映画では原作の黒人女性を黒人女優が演じたわけだが、ハリウッドの「売れない」という先入観を覆し、今年新たにアメリカと日本で拡大公開されて興行的に大成功を収めた。
(次ページに続く)
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