書評
『老人と子供の考古学』(吉川弘文館)
埋葬跡が語る太古の死生観
考古学は机上の空論を嫌う。地味な遺跡の発掘に膨大な時間を費やし、確実な根拠を積み上げようやく一つの学説に辿り着く。本書は考古学界の現場報告と学説の文脈解説にかなりのページを割きつつ、埋葬跡の発掘から緻密に縄文人の死生観を裏付けようとしている。子ども、犬、老人の葬られ方から、縄文時代の家族のあり方、社会における子どもと老人の位置づけ、家畜との関係、さらには縄文時代の階層構造、生と死が循環的につながる原初的死生観が浮き彫りにされる。すでに生産活動の一線から退いた老人と、これから生産、労働に従事する子どもは、死と再生の円環のつなぎ目になっている。だが、子どもが早死にすれば、循環に亀裂が生じ、共同体にとっても大きな損失となる。そのため特別な埋葬の仕方をし、呪術によって、その亀裂を埋め合わせようとした。その呪術に代わる何らかの思想を少子高齢化時代の日本において、磨き上げることが求められる。
朝日新聞 2014年09月07日
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