書評

『立ち読みの歴史』(早川書房)

  • 2025/06/26
立ち読みの歴史 / 小林 昌樹
立ち読みの歴史
  • 著者:小林 昌樹
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:新書(200ページ)
  • 発売日:2025-04-23
  • ISBN-10:4153400432
  • ISBN-13:978-4153400436
内容紹介:
かつて洋行知識人は口々に言った―「海外に立ち読みなし」。日本特有の習俗「立ち読み」はいつ、どこで生まれ、庶民の読書文化を形作ってきたのか?本書はこれまで注目されてこなかった資料を発… もっと読む
かつて洋行知識人は口々に言った―「海外に立ち読みなし」。日本特有の習俗「立ち読み」はいつ、どこで生まれ、庶民の読書文化を形作ってきたのか?本書はこれまで注目されてこなかった資料を発掘し、その歴史を描き出す。明治維新による「本の身分制」の解体、ニューメディア「雑誌」の登場、書店の店舗形態の変化…謎多き近代出版史を博捜するなかで浮かび上がってきたのは、読む本を自ら選び享受する我々「読者」の誕生だった!ベストセラー『調べる技術』著者がその技を尽くす野心作。

目次
零 立ち読みは日本だけ?!―「出版七つの大罪」の筆頭
一 江戸時代の読書―立ち読み前史
二 立ち読みが成立する条件
三 大正七年、宮武外骨の証言
四 書店でない「雑誌屋」
五 「立ち読み」の意味を整理する
六 「立ち読み」という言葉はいつからあったのか
七 江戸の「立ち見」から「立ち読み」の発生まで―立ち読み通史1
八 書店が「開架」したいきさつ―立ち読み通史2
九 「雑誌の時代」とその終わり―立ち読み通史3
十 「立ち読み」に似て非なるもの

雑誌屋の普及が広めた形態

『調べる技術』でヒットを⾶ばした著者が図書館員時代に蓄積した知識をフル稼働させた意外に奥深い読書形態史。

著者は、昭和の洋⾏経験者に海外には⽴ち読みなしという証⾔が多いのに⽬をとめて、「どういう前提をおけば⽴ち読みが『ない』と⾔えるのか」と考え、⽇本における⽴ち読みの発⽣の時点と環境を突きつめようとする。

「⽴ち読み史研究上、最重要な」証⾔は宮武外⾻が⼤正7年(1918年)に残したエッセーで、「明治三⼗年頃までは、雑誌販売店で⽴読みして居ると店の者が『アナタ其雑誌をお買ひになるのですか』と詰責したものであつたが、近年は東京では其⽴読を咎めない事にした」とある。

この証⾔の分析でキーとなるのは販売⽅法が座売りか開架かという問題だが、証⾔からは明治30年頃には座売りから開架への転換がなされていたことがわかる。

第2のキーは「雑誌販売店」である。というのも明治20年代、書店と流通チャネルが異なる元絵草⼦屋で販売されるようになったのを契機に雑誌数は急増したが、⽴ち読みはこの雑誌専⾨店で発⽣したと思われるからだ。つまり「冷やかし」「タダ⾒」「⽴ち⾒」と呼ばれた前駆的形態がすでに観察された絵草⼦屋が明治20年代に業態変更して雑誌を扱うようになると、陳列が開架式に転換されたことも伴って、「⽴ち読み」という現象が発⽣したのだ。

雑誌屋の普及は、全国的に『⽴ち読み』の慣例を庶⺠に広める効果があったことだろう。

⽴ち読み史的第2段階は、明治27年前後から⽇清戦争で部数を拡⼤した博⽂館の雑誌が新刊書店でも売られるようになったことだ。「この書店で売られるようになった雑誌が、⽴ち読み癖を明治⼆〇年代に雑誌屋で⾝につけていた庶⺠を、書店の中に引き⼊れることになったのだろう」

欧⽶の出版・書籍流通史のバイブルで、「⽴ち読み史」に⽋かせないバルザック『幻滅』への⾔及がないのは残念。『幻滅』には「⽴ち読み」と訳されているlectures gratuitesという⾔葉もちゃんと登場しているからだ。

だが、⽇本に関する限り本書は『調べる技術』が完璧に応⽤された読書形態史の⼩傑作と⾔える。

【イベント情報】 小林昌樹 × 鹿島茂
小林昌樹 『立ち読みの歴史』(ハヤカワ新書)を読む

【日時】7/4 (金) 19:00 -20:30
【会場】PASSAGE SOLIDA(神保町)
東京都千代田区神田神保町1-9-20 SHONENGAHO-2ビル 2F
※1Fよりお入りいただき、階段で2階にお上がりください

【参加費】現地参加:1,650円(税込) 、オンライン視聴:1,650円(税込)(アーカイブ視聴可)

※ALL REVIEWS 友の会 特典対談番組
※ALL REVIEWS 友の会(第5期:月額1,800円) 会員はオンライン配信、アーカイブ視聴ともに無料

https://allreviews.jp/news/7400

立ち読みの歴史 / 小林 昌樹
立ち読みの歴史
  • 著者:小林 昌樹
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:新書(200ページ)
  • 発売日:2025-04-23
  • ISBN-10:4153400432
  • ISBN-13:978-4153400436
内容紹介:
かつて洋行知識人は口々に言った―「海外に立ち読みなし」。日本特有の習俗「立ち読み」はいつ、どこで生まれ、庶民の読書文化を形作ってきたのか?本書はこれまで注目されてこなかった資料を発… もっと読む
かつて洋行知識人は口々に言った―「海外に立ち読みなし」。日本特有の習俗「立ち読み」はいつ、どこで生まれ、庶民の読書文化を形作ってきたのか?本書はこれまで注目されてこなかった資料を発掘し、その歴史を描き出す。明治維新による「本の身分制」の解体、ニューメディア「雑誌」の登場、書店の店舗形態の変化…謎多き近代出版史を博捜するなかで浮かび上がってきたのは、読む本を自ら選び享受する我々「読者」の誕生だった!ベストセラー『調べる技術』著者がその技を尽くす野心作。

目次
零 立ち読みは日本だけ?!―「出版七つの大罪」の筆頭
一 江戸時代の読書―立ち読み前史
二 立ち読みが成立する条件
三 大正七年、宮武外骨の証言
四 書店でない「雑誌屋」
五 「立ち読み」の意味を整理する
六 「立ち読み」という言葉はいつからあったのか
七 江戸の「立ち見」から「立ち読み」の発生まで―立ち読み通史1
八 書店が「開架」したいきさつ―立ち読み通史2
九 「雑誌の時代」とその終わり―立ち読み通史3
十 「立ち読み」に似て非なるもの

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2025年5月31日

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