書評
『プライマリー・カラーズ―小説アメリカ大統領選〈上〉』(早川書房)
四年に一度の祭りの時がやってきた。と言ってもオリンピックのことではない。アメリカ大統領選挙のことだ(ALLREVIES事務局注:本書評執筆時期は1996年)。この国独得のマラソンにも似た予備選挙と、そのためのキャンペーン。この実態を内側から見た“政治小説”として、文句なく面白い。訳者の指摘にあるように、本書の原題は文字通り「予備選挙模様」であると同時に、政治と人間をとりまくありとあらゆる色模様を暗示している。
何しろ政治学・行政学のプロの大学院に、ズバリ「政治家になる法」というタイトルの講義があり、有力政治家のスタッフにインターンシップの形で参加できるお国柄である。たとえマクロの政治状況がいかに沈滞気味であろうとも、とにかく四年に一度政治に火がつけられるのだ。
黒人と白人の混血たる若き選挙参謀の目を通して描かれる予備選挙の有り様。南部出身の無名の知事が大統領へという野望を抱いたがために、マスコミによっていかにいじめぬかれるか。ベトナム反戦、不倫、隠し子、もう次から次へとスキャンダルの嵐だ。そして逆転につぐまた逆転のストーリーを追っていくうちに、読者はいつのまにか小説と知りつつもあの大統領夫妻のイメージをしっかりと脳裏にきざみつけることになる。
登場人物はおしなべて強烈な個性を持ち、始終どなりあい、わめき散らす。政治とセックスのエクスタシーに酔いしれ、打算と現世利益に駆られながら、どこかで政治の大義を信じたいと思っている。そんな矛盾の塊に他ならない。もっとも危機一髪の状況になると、いつも汚れた巫女の如き“ゴミ掃除人”リビーなる女性が出現するのは、やや御都合主義的か。しかしリビーを“死中に活を求める”存在の象徴的表現と考えるならば、政治の奥の深さを実感することになろう。
「握手は人間関係の入口、政治の第一歩だ」と書き、「握手が政治の第一歩なら、弱点さがしは何だろう? それは原始的な衝動にもとづく行為であり、すべての戦略と戦術の源流であり、“権力への意志”に起因するもっとも古い、もっとも卑劣なふるまいだ」とうそぶく著者の名はアノニマス(匿名の意)。著者の匿名性それ自体がスキャンダラスではないか。
【単行本】
何しろ政治学・行政学のプロの大学院に、ズバリ「政治家になる法」というタイトルの講義があり、有力政治家のスタッフにインターンシップの形で参加できるお国柄である。たとえマクロの政治状況がいかに沈滞気味であろうとも、とにかく四年に一度政治に火がつけられるのだ。
黒人と白人の混血たる若き選挙参謀の目を通して描かれる予備選挙の有り様。南部出身の無名の知事が大統領へという野望を抱いたがために、マスコミによっていかにいじめぬかれるか。ベトナム反戦、不倫、隠し子、もう次から次へとスキャンダルの嵐だ。そして逆転につぐまた逆転のストーリーを追っていくうちに、読者はいつのまにか小説と知りつつもあの大統領夫妻のイメージをしっかりと脳裏にきざみつけることになる。
登場人物はおしなべて強烈な個性を持ち、始終どなりあい、わめき散らす。政治とセックスのエクスタシーに酔いしれ、打算と現世利益に駆られながら、どこかで政治の大義を信じたいと思っている。そんな矛盾の塊に他ならない。もっとも危機一髪の状況になると、いつも汚れた巫女の如き“ゴミ掃除人”リビーなる女性が出現するのは、やや御都合主義的か。しかしリビーを“死中に活を求める”存在の象徴的表現と考えるならば、政治の奥の深さを実感することになろう。
「握手は人間関係の入口、政治の第一歩だ」と書き、「握手が政治の第一歩なら、弱点さがしは何だろう? それは原始的な衝動にもとづく行為であり、すべての戦略と戦術の源流であり、“権力への意志”に起因するもっとも古い、もっとも卑劣なふるまいだ」とうそぶく著者の名はアノニマス(匿名の意)。著者の匿名性それ自体がスキャンダラスではないか。
【単行本】
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