書評
『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』(国書刊行会)
平凡で退屈な人生から逃れて探検家になった伯父さんが、白いライオンを追い求めて北極へ行き、奇想天外な冒険の末に、とうとうお目当ての幻の獣と出会うことができましたとさ――。〈ヘンテコな伯父さん〉からの、一四通の挿し絵付き手紙で構成された本書の物語はごくシンプル。でも、それを語る筆致とイラストはユニークそのものだ。
たとえば伯父さんのキャラクター。生後一週間も経たないうちに自由と冒険を求めて家出し、学校にあがる年になるとインクを飲んで重い病気になり、卒業まで寝たきりに。二二歳で結婚はしたものの、広い世界を見たいという思いは募り、汽船に乗り込んで南の島へ。ところが、そこでも腰は落ち着かず、テーブルとイスで作った手製の小舟で、独り大海へと乗り出していく、といった具合の実に破天荒な自由人なのである。
サブキャラクターもユーモラスなこと、この上もなし。とりわけ、伯父さんの従僕役を務める亀犬ジャクスンの愛すべき性格といったら! まさに、グズでのろまな亀(©︎ドラマ『スチュワーデス物語』)そのもの。あまりの鈍くささに怒り心頭、ぶちキレる伯父さんとのデコボコ脱線コンビぶりは、ドン・キホーテとサンチョ・パンサのごとく絶妙なのだ。
このコンビが出会う極北の生き物がまた秀逸。雪ヘビに極地カブトムシ、しっぽもつれ科のヘラジカに白カラスといった想像上の生き物と、北極クマのような実在の生き物が入り乱れて、伯父さんとジャクスンの冒険に笑いの彩りを添えている。
つまり、『ドン・キホーテ』と『ほら吹き男爵』と『白鯨』が合体して絵本になった、そんなテイストの一冊なのだ。でも、手に取ってもらえばわかるけれど、ありていの絵本から受けるイメージとはずいぶん違うはず。これはイラスト・活字・手書き文字を合体させることで、いかにも伯父さんが本当に書いた手紙と思わせるような状態を再現しているという、凝った造りの本だから。原作本を手にしたことはないけれど、本書を翻訳・製本するにあたっては並々ならぬ苦労があったに相違ない。訳者&編集者の熱意と原作への愛が伝わる素晴らしい出来映えに、最大級の拍手を送りたいと思う。
さて、それほどユニークな絵本を生み出したマーヴィン・ピークとはどんな人物だったのか。一九一一年生まれのイギリス人。詩人、作家にして、コールリッジ『老水夫行』やルイス・キャロル『スナーク狩り』、スティーヴンソン『宝島』など約二〇冊に及ぶ怪奇幻想冒険小説の挿し絵を描いた画家としても知られている。ピークの作家としての名声を決定的にしたのは『ゴーメンガースト』三部作(創元推理文庫)。とはいえ、作家・ノンセンス詩人・画家という三つの貌(かお)全て味わえる本書が、ピーク入門書として最適な一冊であることだけは間違いない。これを読んだ上で、好奇心とガッツに溢れる方は、ぜひ三部作にもトライしてみてほしい。
【この書評が収録されている書籍】
たとえば伯父さんのキャラクター。生後一週間も経たないうちに自由と冒険を求めて家出し、学校にあがる年になるとインクを飲んで重い病気になり、卒業まで寝たきりに。二二歳で結婚はしたものの、広い世界を見たいという思いは募り、汽船に乗り込んで南の島へ。ところが、そこでも腰は落ち着かず、テーブルとイスで作った手製の小舟で、独り大海へと乗り出していく、といった具合の実に破天荒な自由人なのである。
サブキャラクターもユーモラスなこと、この上もなし。とりわけ、伯父さんの従僕役を務める亀犬ジャクスンの愛すべき性格といったら! まさに、グズでのろまな亀(©︎ドラマ『スチュワーデス物語』)そのもの。あまりの鈍くささに怒り心頭、ぶちキレる伯父さんとのデコボコ脱線コンビぶりは、ドン・キホーテとサンチョ・パンサのごとく絶妙なのだ。
このコンビが出会う極北の生き物がまた秀逸。雪ヘビに極地カブトムシ、しっぽもつれ科のヘラジカに白カラスといった想像上の生き物と、北極クマのような実在の生き物が入り乱れて、伯父さんとジャクスンの冒険に笑いの彩りを添えている。
つまり、『ドン・キホーテ』と『ほら吹き男爵』と『白鯨』が合体して絵本になった、そんなテイストの一冊なのだ。でも、手に取ってもらえばわかるけれど、ありていの絵本から受けるイメージとはずいぶん違うはず。これはイラスト・活字・手書き文字を合体させることで、いかにも伯父さんが本当に書いた手紙と思わせるような状態を再現しているという、凝った造りの本だから。原作本を手にしたことはないけれど、本書を翻訳・製本するにあたっては並々ならぬ苦労があったに相違ない。訳者&編集者の熱意と原作への愛が伝わる素晴らしい出来映えに、最大級の拍手を送りたいと思う。
さて、それほどユニークな絵本を生み出したマーヴィン・ピークとはどんな人物だったのか。一九一一年生まれのイギリス人。詩人、作家にして、コールリッジ『老水夫行』やルイス・キャロル『スナーク狩り』、スティーヴンソン『宝島』など約二〇冊に及ぶ怪奇幻想冒険小説の挿し絵を描いた画家としても知られている。ピークの作家としての名声を決定的にしたのは『ゴーメンガースト』三部作(創元推理文庫)。とはいえ、作家・ノンセンス詩人・画家という三つの貌(かお)全て味わえる本書が、ピーク入門書として最適な一冊であることだけは間違いない。これを読んだ上で、好奇心とガッツに溢れる方は、ぜひ三部作にもトライしてみてほしい。
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