書評
『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社)
データベースが民主主義を支える時代へ
「熟議」という言葉をよく聞く。よく議論すれば、よりよい考えに到達し、みんなが納得する(はずだ)、という思いがその背景にある。でも、ほんとうかな? と思うことが多い。たとえば大阪のW選。議論(というよりも非難の応酬)は盛んだった。結果はみんなの納得というよりも、「気に入らないヤツは出て行け」という分裂だ。TPPの問題もそう。「熟議」がいいことなら、議論によって態度を変えるのもいいことであるはず。ところが世の中では、意見を変えると「転向」と後ろ指さされ、変わらなかった人がほめられる。誰も「熟議」なんて信じちゃいないのだ。
東浩紀の『一般意志2.0』は、熟議信仰を超えて民主主義の更新を目指す野心的な評論である。副題は「ルソー、フロイト、グーグル」。奇怪な三題噺のようだが、そんなに難解な話ではない。
情報技術の革新によって、たくさんの人の「意見」を集めやすくなった。グーグルやアマゾンがやっているのはそういうことだ。じゃあ、その技術をもっと発展させて、新しい民主主義に使えないか、というのが本書の提言である。「熟議」に代わって、データベースが民主主義を支える。でもその民主主義は現在のそれとは次元が違うから「2.0」である。
データベースに集められる「意見」は、大阪都構想はいいか悪いか、TPPに参加すべきか否かといったレベルのものではない。もっと我々が無自覚であるような欲望、こういうものが欲しいなとか、こうだったらいいなという欲求をすくい取る。人びとがネットで検索したり、ツイッターでつぶやいたりするたびに、“民主主義”が育っていく。
意見を変えないことを誇りつつ、噛み合わない議論を重ねていくよりも、はるかに快適かもしれない。この本が売れるのは、熟議民主主義に根本的な疑問を持っている人が少なくないからだろう。でも、1週間でツイッターに飽きて脱落した私は、ついていけるかな。
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