書評
『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』(講談社)
巧みな社会批評の数々
新書サイズのエンターテインメント小説をノベルスという。ベストセラーも多いが、なぜか書評の対象になることは少ない。「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズもそのひとつ。スペースオペラ『銀河英雄伝説』で知られる田中芳樹による警察小説で、容姿端麗・頭脳明晰な女性キャリア警視の活躍をノンキャリアの部下の視点で描く。『魔境の女王陛下』はその最新作。ヒロイン、薬師寺涼子のあだ名は「ドラよけお涼」。ドラキュラもよけて通る性格の悪さなのである。そのお涼が殺人鬼を追ってシベリアの奥地に行く。ところが待っていたのは、巨大な牙を持つ獣、サーベルタイガー。操っているのは誰か? やがて日本とロシアを巻き込む大陰謀が見えてきて……というのが大まかなストーリー。
魔獣と殺人鬼、ロシア・マフィアや日本のダメ官僚らと戦う大活劇である。
高慢なお嬢様警視と、執事のようなノンキャリアのコンビは大いに笑わせてくれるが、本作の魅力は登場人物の口を使って語られる社会批評の数々だ。たとえば、金融工学についてのお涼の評価は「インチキ賭博の必勝法に数学を悪用したシロモノ。詐欺の体系化。腐敗してハエのたかる、資本主義のなれのはて」。うまい!
「共産主義は人類を虐待したけど、金融資本主義は人類を破滅させるわね」とか。堅い話ばかりじゃなくて、「いまや日本は、肉食系女子、草食系男子、雑食系オカマの三国時代」なんて軽口も。
かつて池田浩士が、その時代の思想は(一般的に思われているように)純文学ではなく、大衆小説にこそあらわれる、と喝破したのを思い出す。
「科学の進歩を否定したら、人間はサルになる」という言葉を引いて、「サル? けっこうじゃないの、サルで。この期におよんで、まだ原子力発電を推進しようなんてやつらは、サル以下なんだから」という会話もある。野田政権はサル以下への道を粛々と進む。
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