書評

『剣闘士と社会: 帝政前期ローマにおける剣闘士競技の力学』(山川出版社)

  • 2026/02/10
剣闘士と社会: 帝政前期ローマにおける剣闘士競技の力学 / 阿部 衛
剣闘士と社会: 帝政前期ローマにおける剣闘士競技の力学
  • 著者:阿部 衛
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2025-11-25
  • ISBN-10:4634673991
  • ISBN-13:978-4634673991
内容紹介:
本書は、帝政前期ローマ社会における剣闘士競技の社会的意義を、剣闘士という存在の再定義を通して考察する。これまで自明とされてきた「剣闘士=奴隷」という固定的な通説を覆し、競技に関わ… もっと読む
本書は、帝政前期ローマ社会における剣闘士競技の社会的意義を、剣闘士という存在の再定義を通して考察する。これまで自明とされてきた「剣闘士=奴隷」という固定的な通説を覆し、競技に関わる人々を動的な存在としてとらえなおす。
奴隷・一般市民・上層民・皇帝といった多様な階層と剣闘士競技の関係性を詳細に分析し、奴隷にとって社会的上昇の足がかり、一般市民にとって生業、上層民にとって名声獲得の手段、そして皇帝にとって武勇を示す機会として、剣闘士競技が機能していたことを明らかにした。剣闘士競技は、社会のあらゆる階層がそれぞれの状況に応じて利用する、多義的な存在であった。
また、主催者・観客・剣闘士という立場が固定的ではなく、人々がそれぞれの階層や状況に応じて流動的に関わっていたことを実証する。この多角的な関わり方から生まれた競技への深い理解と剣闘士への共感こそが、ローマ市民を熱狂させた要因であると結論づける。

目次
序章 モノクロームな剣闘士
第一章 剣闘士競技の運営
第二章 「矛盾に満ちた存在」としての剣闘士
第三章 キャリアとしての剣闘士―奴隷の場合
第四章 職業としての剣闘士―一般市民の場合
第五章 上層民と剣闘士競技
第六章 皇帝と剣闘士競技
終章 剣闘士というスペクトラム
生あるものはいずれ世を去る。だが、剣闘士はもともと「死すべき存在」と期待されていたのだろうか。

とりわけ最下層の奴隷身分にある剣闘士であれば、敗者の死は当然であっただろう。ところが、三世紀になると「助命なし」の剣闘士興行がことさら強調されていることから、剣闘士の死はむしろ希求されるほど珍しかったと言えるのだ。

剣闘士の墓碑一二五点が網羅的に収集され、なかに剣闘士自身が他者を殺さなかった事例や殺されなかった事例も数多く見出(みいだ)されるし、自然死を暗示する事例もあるという。

生ある人間として見れば、剣闘士は財産であり、生者同士の結びつきの紐帯(ちゅうたい)をなしていた。そもそも戦争捕虜や犯罪者として社会の外側にあったが、解放されたり引退した剣闘士出身者のなかには、地域社会に溶けこみ、上昇する者すらあったという。また、帝政期に軍団が縮小され、軍人たるべき人材が剣闘士に流出した側面も否定できない。

格闘技を特技とする著者は、生き永らえる術(すべ)に苦闘する剣闘士の息吹を蘇(よみがえ)らせる学術書にも成功、さすがだ。
剣闘士と社会: 帝政前期ローマにおける剣闘士競技の力学 / 阿部 衛
剣闘士と社会: 帝政前期ローマにおける剣闘士競技の力学
  • 著者:阿部 衛
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2025-11-25
  • ISBN-10:4634673991
  • ISBN-13:978-4634673991
内容紹介:
本書は、帝政前期ローマ社会における剣闘士競技の社会的意義を、剣闘士という存在の再定義を通して考察する。これまで自明とされてきた「剣闘士=奴隷」という固定的な通説を覆し、競技に関わ… もっと読む
本書は、帝政前期ローマ社会における剣闘士競技の社会的意義を、剣闘士という存在の再定義を通して考察する。これまで自明とされてきた「剣闘士=奴隷」という固定的な通説を覆し、競技に関わる人々を動的な存在としてとらえなおす。
奴隷・一般市民・上層民・皇帝といった多様な階層と剣闘士競技の関係性を詳細に分析し、奴隷にとって社会的上昇の足がかり、一般市民にとって生業、上層民にとって名声獲得の手段、そして皇帝にとって武勇を示す機会として、剣闘士競技が機能していたことを明らかにした。剣闘士競技は、社会のあらゆる階層がそれぞれの状況に応じて利用する、多義的な存在であった。
また、主催者・観客・剣闘士という立場が固定的ではなく、人々がそれぞれの階層や状況に応じて流動的に関わっていたことを実証する。この多角的な関わり方から生まれた競技への深い理解と剣闘士への共感こそが、ローマ市民を熱狂させた要因であると結論づける。

目次
序章 モノクロームな剣闘士
第一章 剣闘士競技の運営
第二章 「矛盾に満ちた存在」としての剣闘士
第三章 キャリアとしての剣闘士―奴隷の場合
第四章 職業としての剣闘士―一般市民の場合
第五章 上層民と剣闘士競技
第六章 皇帝と剣闘士競技
終章 剣闘士というスペクトラム

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年1月31日

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