書評
『焦痕』(集英社)
人物の動かし方に新境地
これまで藤沢周は、都会生活に疲れた、主に男を描いてきた。仕事で追い込まれたり、男女関係に倦(う)んだり。それはときに激烈な事件に発展することもあるけれど、たいていは、妄想を爆発させる程度のことだった。そんな主人公を造ると、どうしても人間の心理描写が中心になって、読んでいるこちらも、どんどん気分が重くなっていったことも事実だ。いま日本で書かれている小説の中では、ダントツに少ない会話もそのせいである。
今度の短篇集は、登場人物が多彩だ。同じ会社に勤める複数の人間をそれぞれ主人公に仕立てて、一話ずつ話者を変えていく。短篇が数珠繋(つな)ぎになっている。あまり重要なキャラじゃないように思えた女子社員が、意外な内面をもっていて、面白い。新境地を開拓したと思って読んだ。
もちろん心理の機微を巧みな比喩で細かく描写していくこれまでの手法も健在だが、人物の動かし方が、従来の藤沢作品になかった手法で、新しいと感じた。一つひとつの作品でははっきりと感受できなかった魅力が、こうして一つの本にまとまるとこれほどの輝きを発することに、不意を衝(つ)かれる。
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