書評
『こころのふしぎ なぜ?どうして?』(高橋書店)
仕組みや裏側を考えさせる
「こころ」の教育というだけで構えてしまう。どうせ古くさくて窮屈な、大人に都合がいい道徳の話なんだろうと。おっと、文部科学省が配布した「心のノート」の悪口はここまで。さて、『こころのふしぎ なぜ?どうして?』は、子ども向けのベストセラー書。ここで扱われるのは「かなしい」「こわい」「くやしい」「なまけたい」といった「気もち」とどう向き合うかという、その方法について。
例えば「くやしい」は、かけっこで負けたときに生じる感情。どうするべきか。「正しく」使えば「つぎはまけないようにがんば」るという気持ちにつながる。本書はそんな「気もち」の有用性を説く。やはり説教くさい。
ただこんな例もある。おばけがこわい理由。それは、「よくわからないもの」だから。もうひとつ理由がある。それは「でも、ちょっとだけ見て、こわい気もちをあじわいたい」から。そう、人には好奇心があり「見たい」と「こわい」はワンセットなのだ。ほーなるほど。
傑作は、「どうして、お店のものをかってにもって帰っちゃいけないの?」という例。
つまり、盗みはなぜ悪いかという問題だ。ここで説明されるのは、どろぼうは社会の「お金のながれ」を止める行為であるということだ。これによって、困る人、悲しむ人が生まれる。悪くすると、友だちのお父さんが失業して、この町から友だちもいなくなるかもしれない。それは悲しい。ここで示されるのは、仕入れ、販売といった経済の仕組みと労働の問題だ。
本書は、道徳を教えるのではなく、先のことや裏側にあるものをよく考えてみようということを言っているのだ。
扱いにくい宗教に踏み込んでもいる。だが、読みたかったのは「愛国心」。この本なら、「心のノート」とは違った切り口で教えてくれそうだ。
朝日新聞 2014年3月23日
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