書評
『偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件』(白水社)
絵画詐欺 息をのむ問題提起
妻が幼い子ども2人を残していなくなった。残されたのはあばら屋のような農場。経済的には逼迫した。非常勤の美術教師マイアットは、どんづまり状態だった。マイアットは小さい頃から絵を描くのが巧(うま)かった。芸術というよりは、すでにある絵を模写する才能が際立っていた。
格安で絵を描きます、という広告を出した。ドゥリューという人物が連絡してきた。英国紳士で原子物理学の博士号を持っているという人物。
マイアットはドゥリューの要請に応じて、自在に絵を描き始める。日曜画家が求められるままに描いた模写はしかし、意外な展開をする。
オークションに出される絵画が、「来歴」(作者の手を離れてからどのような道を辿(たど)ってきたか)によって真贋(しんがん)を判断されることに目をつけたドゥリューは、「来歴」自体を捏造(ねつぞう)する。そして2人の行為は「二十世紀最大の絵画詐欺事件」に発展していく。
ドキュメンタリーである。だが、まるで虚構のような展開に息をのんでしまう。美術品とは何か、その価値を保証している「来歴」に依存する私たちの眼(め)は? 大きな問題提起の書。中山ゆかり訳。
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