書評
『新解さんの謎』(文藝春秋)
「新解さん」の輪
先日、喫茶店で某編集嬢と打ち合わせをしていたら「タカハシさん、『新解さん』読みました?」といわれた。「いや」とわたしは答えた。「面白いんだってね。噂は聞いてるけど」
「わたし、ここへ来る途中ずっと電車の中で読んでたんですけど、笑いっぱなしでした」
そういうと編集嬢は本を引っ張りだした。『新解さんの謎』(赤瀬川原平著、文藝春秋)である。
「ここ、ここ、ここ読んでください!」
わたしはそこを読んだ。ゲラゲラ笑った。すると、編集嬢は、勢いこんで、
「それから、ここ、ここも!」
わたしは指摘された箇所を読み、またゲラゲラ。すると編集嬢は調子に乗って、「これ、これ、これだって!」
わたしはさらにさらにゲラゲラ。周りの人たちが胡散臭そうな目つきでわたしたちを見ている。で、編集嬢は気を取り直し、マジメな顔つきで、
「この辺なんかもなかなか」
わたしは卓を叩いて大笑い……。
もちろん、わたしは編集嬢との打ち合わせが終わるとすぐに『新解さんの謎』を購入して、家人に見せた。
「ちょっと、ここを読んでみて」
すると、家人はゲラゲラ笑い出した。
当然わたしは、「でも、こっちの方はもっと……」
すると、家人は腹を抱えて……。
そういうわけで、現在あちこちで『新解さんの謎』の輪ができつつあるといわれている。他人にいわれてその場で読む。おかしい。決して、ギャグをかましているわけではない。しかし、笑わずにいられない。そのうち、どうしてもまだ読んでいない他人を笑わせたくなり、本を購入して誰かに見せる。別に自分がおかしいことをいって笑わせているわけでもないのに、ある用例を指摘して、それを他人が読み、そのことによって他人が”激笑”すると、なんだか自分が笑わせたような気になるのである。まあ、気のせいなんだけど。
さて、そのきわめて伝染性の高い『新解さんの謎』は「新解さん」=「新明解国語辞典」の不可思議な魅力について書かれた本である。「新解さん」は国語辞典である。しかしただの国語辞典ではない。あまりにも独自の個性を持った国語辞典である。だから、愛称までできてしまった。それが「新解さん」だ。では「新解さん」とはどんなキャラクターの持ち主なのか。
それは「新解さん」が披露している言葉の定義の中に隠されている。その一つ一つに、我々は感心し、唸り、呆然とするのである。さて、この『謎』が引用している中で、わたしがいちばん感動したのは「動物園」の意味。
動物園 生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設。……
すいません。心の中でそういいたくなる。グリーンピースとはなんの関係もない。しかし、この熱情は我々の胸を激しくうつ。しかし、同時に笑ってしまうところがもっと不思議。
こうやって『謎』を読んでいると、今度は自分で「新解さん」を読みたくなる。幸い、わたしも第三版(第四刷)というのを持っていた。適当に頁を開くと、こんな言葉が。
友愛 知人に対しては献身的な愛をささげ、見知らぬ他人に対しても必要な愛を惜しまないこと
鳩山さん、「見知らぬ他人」も愛さなきゃならないのだから、可哀そうな社民党も入れてあげたらどうでしょう。
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