書評

本村 凌二「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>エマニュエル・トッド、荻野 文隆訳『世界の多様性―家族構造と近代性<普及版>』(藤原書店) <2>L・D・レノルズ、N・G・ウィルソン、西村 賀子、吉武 純夫訳『古典の継承者たち』(筑摩書房) <3>デイヴィッド・ポッター、井上 浩一訳『テオドラ―女優からビザンツ皇后、聖人へ』(白水社)

  • 2025/12/30

2025年「この3冊」

<1>エマニュエル・トッド、荻野  文隆訳『世界の多様性―家族構造と近代性<普及版>』(藤原書店)
<2>L・D・レノルズ、N・G・ウィルソン、西村 賀子、吉武 純夫訳『古典の継承者たち』(筑摩書房)
<3>デイヴィッド・ポッター、井上 浩一訳『テオドラ―女優からビザンツ皇后、聖人へ』(白水社)


<1>議論の核心は、家族システムをめぐって、全世界規模での分布を確定し、それらの変遷をたどり、そこに生きる人々の心性との関係を見出(みいだ)すことにある。既存書の普及版であるが、今なお新知見が散らばっており、二十一世紀の古典とも言えるだろう。

<2>ギリシア語とラテン語の文献が保存されてきた流れをたどり、この写本の時代に前近代の学者や読者が古典文献の保存と伝承に興味をいだいていたかを理解させてくれる。初心者向けの入門書として書かれ、ありがたい。

<3>六世紀、民衆の反乱があり、逃げようとしたユスティニアヌス帝に妃テオドラは「帝位は輝かしい死装束です」と口を挟む。彼女は若き日の拙い自分を助けた人々に誠心誠意をもって応じたという。分かりやすい歴史研究書、説得される。

世界の多様性〈普及版〉 〔家族構造と近代性〕 / エマニュエル・トッド
世界の多様性〈普及版〉 〔家族構造と近代性〕
  • 著者:エマニュエル・トッド
  • 翻訳:荻野 文隆
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(576ページ)
  • 発売日:2025-05-27
  • ISBN-10:4865784632
  • ISBN-13:978-4865784633
内容紹介:
トッドの主著、若き日の革命的著作!“家族構造”の分析で、全く新しい世界認識を提示するトッド理論の原点!「『世界の多様性』は、西欧を中心とした今日のグローバル・イデオロギーへの警鐘… もっと読む
トッドの主著、若き日の革命的著作!
“家族構造”の分析で、全く新しい世界認識を提示するトッド理論の原点!

「『世界の多様性』は、西欧を中心とした今日のグローバル・イデオロギーへの警鐘の書である」(訳者)

【目次】
序文

●第三惑星――家族構造とイデオロギー・システム
民主主義と人類学/七つの家族類型/共同体型/権威主義型/二つの個人主義/内婚制型/非対称型/アノミー型/アフリカ型/偶然

●世界の幼少期――家族構造と成長
成長への文化的アプローチ

第Ⅰ部 家族構造と識字化
一つの人類学モデル/ヨーロッパ/ロシア/第三世界のテイクオフ――東アジアとアメリカのインディオ/2000年の第三世界――イスラム、インド北部、アフリカ

第Ⅱ部 近代性の諸次元――識字化の社会的帰結
政治的近代性/人口動態上の近代性/経済的近代性

巻末附録1 1970―1980年代における第三世界の統計データ
巻末附録2 1930年代におけるヨーロッパの統計データ

原注/参考文献/図表一覧

〈訳者解説〉多様性と歴史性
普及版への訳者あとがき

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古典の継承者たち ――ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史 / L.D.レノルズ
古典の継承者たち ――ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史
  • 著者:L.D.レノルズ
  • 翻訳:西村 賀子,吉武 純夫
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(624ページ)
  • 発売日:2025-06-12
  • ISBN-10:4480511830
  • ISBN-13:978-4480511836
内容紹介:
ギリシア語とラテン語の古典はいかにして現在の形を取るに至ったのか。古代から現代まで、文献保存のプロセスを概説する。原書第四版に基づき改訳。

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テオドラ:女優からビザンツ皇后、聖人へ / デイヴィッド・ポッター
テオドラ:女優からビザンツ皇后、聖人へ
  • 著者:デイヴィッド・ポッター
  • 翻訳:井上 浩一
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(348ページ)
  • 発売日:2025-03-28
  • ISBN-10:4560091595
  • ISBN-13:978-4560091593
内容紹介:
知性・美貌・度胸・誠実。六世紀、世論を左右する娯楽産業界と、帝国統治に重要なキリスト教界の人脈をもって、夫を支えたテオドラ。多くの障害を乗り越えて頂点に立ち、女性や子供のための画… もっと読む
知性・美貌・度胸・誠実。六世紀、世論を左右する娯楽産業界と、帝国統治に重要なキリスト教界の人脈をもって、夫を支えたテオドラ。多くの障害を乗り越えて頂点に立ち、女性や子供のための画期的な法律を制定した女性政治家の実像を、同時代人の著作と最新の研究成果をもとに探る。

目次
第1章 コンスタンティノープル
第2章 下世話な物語
第3章 セックスと舞台
第4章 党派と人脈
第5章 パトリキウス叙任
第6章 帝位継承
第7章 アウグスタ―最初の五年
第8章 革命
第9章 戦争と宗教
第10章 陰謀と疫病
第11章 晩年
第12章 遺産

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年12月13日

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