書評
『星へ落ちる』(集英社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
三年間同棲していた彼氏を捨て、男性とルームシェアしている彼を激しく愛するようになってしまった〈私〉。女に彼をとられ嫉妬で頭がおかしくなりそうな〈僕〉。突然家を出てしまった彼女(私)のことがどうしても諦めきれない肉体労働者の〈俺〉。“彼”というとんでもなく魅力的であるらしい男をめぐって交錯する、〈私〉と〈僕〉と〈俺〉三者三様の心理を丁寧に描いた連作短篇集で、彼の心中には一切踏み込まず、あくまでも彼を愛する〈私〉と〈僕〉の目を通してその人となりを描くというスタイルの叙述をとっているんです。
ところが、〈私〉が摂食&睡眠障害になったり、ヘテロの男も魅了できるほどのルックスを備えたモテゲイの〈僕〉が自殺未遂に追い込まれるほどの魅力が、“彼”から一向に感じられないんです。単なる身勝手で冷たいだけの男にしか思えない。それはこの「藪の中」タイプの小説にとっては致命的な欠陥です。もしかすると作者は、「端から見ればそんな酷薄な男に頭がおかしくなるほど執着してしまう。それが恋なのだし、三角関係なのだ」と伝えたいのかもしれませんが、その描写があまりにもクリシェでメロドラマのレベルを超えていないという批判にはどう答えるのでしょうか。
晴れて同居できるようになったのに、今度は自分に隠れて元彼の〈僕〉と会っているのではないかという疑心に駆られるヒロインの、〈私と彼の関係が浮気だった頃は、あの人が私の影に怯えていたのに彼があの人の元を去ってからは、私があの人の影に怯えている〉なんて心境も着地点として陳腐すぎ。赤ん坊しか愛せない究極のペドフィリアを扱って過激な『アッシュベイビー』(集英社文庫)という傑作を書いた金原ひとみよ、何処へ? こんなつまんない三角関係小説に、ただでさえ少なそうなHP(ヒットポイント)を費やしてちゃ、だめじゃん!
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
過激な傑作『アッシュベイビー』を書いた金原ひとみよ、何処へ?
自著にサインを求められる時よくいただくのが「最近、鉄の斧がないから淋しいです」というお言葉だったりいたしますの。メッタ斬り!のせいで、トヨザキ=毒舌というイメージを持ってる方が多いんでしょうか。実際は褒め評がほとんどなのに。正直、わたしも暇ではないので、読む前から駄作とわかっている小説にまでなかなか手を伸ばせないんです。ですが、悲しいことに、期待して読んだらハズレだったということはたまにあるわけで……。それが金原ひとみの『星へ落ちる』。去年の十二月に出ていたのを読み逃してたんですが、最近ちょっとした暇を見つけて開いてみたんですよ。そしたらば、あなたっ! なんということなの、これは!?三年間同棲していた彼氏を捨て、男性とルームシェアしている彼を激しく愛するようになってしまった〈私〉。女に彼をとられ嫉妬で頭がおかしくなりそうな〈僕〉。突然家を出てしまった彼女(私)のことがどうしても諦めきれない肉体労働者の〈俺〉。“彼”というとんでもなく魅力的であるらしい男をめぐって交錯する、〈私〉と〈僕〉と〈俺〉三者三様の心理を丁寧に描いた連作短篇集で、彼の心中には一切踏み込まず、あくまでも彼を愛する〈私〉と〈僕〉の目を通してその人となりを描くというスタイルの叙述をとっているんです。
ところが、〈私〉が摂食&睡眠障害になったり、ヘテロの男も魅了できるほどのルックスを備えたモテゲイの〈僕〉が自殺未遂に追い込まれるほどの魅力が、“彼”から一向に感じられないんです。単なる身勝手で冷たいだけの男にしか思えない。それはこの「藪の中」タイプの小説にとっては致命的な欠陥です。もしかすると作者は、「端から見ればそんな酷薄な男に頭がおかしくなるほど執着してしまう。それが恋なのだし、三角関係なのだ」と伝えたいのかもしれませんが、その描写があまりにもクリシェでメロドラマのレベルを超えていないという批判にはどう答えるのでしょうか。
晴れて同居できるようになったのに、今度は自分に隠れて元彼の〈僕〉と会っているのではないかという疑心に駆られるヒロインの、〈私と彼の関係が浮気だった頃は、あの人が私の影に怯えていたのに彼があの人の元を去ってからは、私があの人の影に怯えている〉なんて心境も着地点として陳腐すぎ。赤ん坊しか愛せない究極のペドフィリアを扱って過激な『アッシュベイビー』(集英社文庫)という傑作を書いた金原ひとみよ、何処へ? こんなつまんない三角関係小説に、ただでさえ少なそうなHP(ヒットポイント)を費やしてちゃ、だめじゃん!
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