書評
『文學少女の友』(青土社)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
小川洋子を少女小説の末裔として読み直す「月曜日」、澁澤龍彦や笙野頼子といった作家が描いた人形と耽美の世界を覗く「火曜日」、堀辰雄以来ロマンス小説の舞台となっている軽井沢を活字の世界に訪ねる「水曜日」、娯楽小説の”面白さ”を検証する「木曜日」、近代文学から滝本竜彦『NHKにようこそ!』(角川文庫)へと至る二ート小説の系譜をたどる「金曜日」、〈いい氣持〉をキーワードに吉田健一の文章の魅力を解き明かす「土曜日」、芥川賞の選評を鑑賞する「日曜日」、七つのテーマのもと、たくさんの小説が紹介されるばかりか、既成の解釈によりかからない千野さんの独創的な批評眼を通すことで、そうした作品たちが新しい魅力を放ったり、作品同士が意外なつながりを見せたりするのです。
なかでも刺激的なのは、〈《プロットやストーリー》が娯楽小説の「本質」であり、それ以外は枝葉なのか〉と思わせられるほど〈その言語感覚や女性観にうんざりするのは日常茶飯事〉のエンターテインメント界に斬り込んでいく「木曜日」の章です。ここで、千野さんはさまざまな具体例を挙げながら作品そのものの批評をしていくのですが、返す刀で、ミステリーやSFといったジャンル小説を、その狭い”世間”の中でしか通用しない教養やジャンル性の強度をもって支持・評価する読者共同体をも批判します。その明晰さ、その勇ましさ、その潔さ! 漢(おとこ)っぷりに惚れ惚れするとはこのことでありましょう。
魅力は、しかし、益荒男ぶりだけにとどまりません。宇野浩二の『屋根裏の法學士』(中央公論社『宇野浩二全集第一巻』)と町田康の『夫婦茶碗』(新潮文庫)をつなげ、後者の作品に出てくる「猫の蚤とろう」という一文から、国枝史郎の『猫の蚤とり武士』を思い出すといった広くて深い読書のスケール。尾崎翠の『第七官界彷徨』(ちくま文庫『尾崎翠』)から〈捨て身の自虐〉による笑いをすくい上げる読みの深さ。小説は読まれることで更新されていきます。その意味で、千野帽子という最良の読者を得られた小説は幸福です。千野帽子という批評家を得たわたしもまた幸福です。あなたも“文學少女の友”となり、幸せを噛みしめてみませんか。
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
その明晰さ、勇ましさ、潔さに惚れ惚れ。千野帽子は今が旬
おとなしい批評家など犬に食わせてしまえ、なんてこと申しません。だって犬が可哀想ですもの。お腹壊しちゃいますもの、そんな腐ったもん食べたりしたら。でも、右を見ても左を見ても腐りかけの代物ばかり。なかなか新鮮な才能にお目にかかれないわあとお嘆きの方におすすめしたいのが、千野帽子なんですの。旬も旬。今読んでおかないと、後で恥をかきましてよ。小川洋子を少女小説の末裔として読み直す「月曜日」、澁澤龍彦や笙野頼子といった作家が描いた人形と耽美の世界を覗く「火曜日」、堀辰雄以来ロマンス小説の舞台となっている軽井沢を活字の世界に訪ねる「水曜日」、娯楽小説の”面白さ”を検証する「木曜日」、近代文学から滝本竜彦『NHKにようこそ!』(角川文庫)へと至る二ート小説の系譜をたどる「金曜日」、〈いい氣持〉をキーワードに吉田健一の文章の魅力を解き明かす「土曜日」、芥川賞の選評を鑑賞する「日曜日」、七つのテーマのもと、たくさんの小説が紹介されるばかりか、既成の解釈によりかからない千野さんの独創的な批評眼を通すことで、そうした作品たちが新しい魅力を放ったり、作品同士が意外なつながりを見せたりするのです。
なかでも刺激的なのは、〈《プロットやストーリー》が娯楽小説の「本質」であり、それ以外は枝葉なのか〉と思わせられるほど〈その言語感覚や女性観にうんざりするのは日常茶飯事〉のエンターテインメント界に斬り込んでいく「木曜日」の章です。ここで、千野さんはさまざまな具体例を挙げながら作品そのものの批評をしていくのですが、返す刀で、ミステリーやSFといったジャンル小説を、その狭い”世間”の中でしか通用しない教養やジャンル性の強度をもって支持・評価する読者共同体をも批判します。その明晰さ、その勇ましさ、その潔さ! 漢(おとこ)っぷりに惚れ惚れするとはこのことでありましょう。
魅力は、しかし、益荒男ぶりだけにとどまりません。宇野浩二の『屋根裏の法學士』(中央公論社『宇野浩二全集第一巻』)と町田康の『夫婦茶碗』(新潮文庫)をつなげ、後者の作品に出てくる「猫の蚤とろう」という一文から、国枝史郎の『猫の蚤とり武士』を思い出すといった広くて深い読書のスケール。尾崎翠の『第七官界彷徨』(ちくま文庫『尾崎翠』)から〈捨て身の自虐〉による笑いをすくい上げる読みの深さ。小説は読まれることで更新されていきます。その意味で、千野帽子という最良の読者を得られた小説は幸福です。千野帽子という批評家を得たわたしもまた幸福です。あなたも“文學少女の友”となり、幸せを噛みしめてみませんか。
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