書評
『The Twelve Forces』(角川書店)
二一世紀、大ブレイクする作家は戸梶圭太! だからといって、直木賞は獲りませんけど。ていうか、いらないし。本人じゃないのに拒否するのもアレですけど、直木賞ってのはウェットな、つまりお涙頂戴系の作品ばかりが対象になりがちでございましょ。戸梶圭太は、そんなヌレヌレのグジョグジョのズブズブの、梅雨時の生乾きなパンツのごときクサ~イ世界にはきっぱりと背を向けている、二一世紀エンターテインメント小説界の快男子なのである。
小説に笑いを求める者、戸梶傘下に結集せよ! SF作家時代の筒井康隆ファン、結集せよ! 大藪春彦ファンも少しは結集せよ! 絶妙の匙加減でデフォルメされた言語感覚と、スラップスティックな状況展開が生む様々なレベルの笑い、バイオレンス&アクションシーンにおける溢れんばかりのエグい、しかし滑稽さもかもす臓物感覚、ウェットに流れない乾いた自制心。どれを取っても、従来の直木賞作品とは縁もゆかりも感じさせない独特の資質で、それこそが戸梶圭太の素晴らしさのゆえんなのだ。
温暖化が進み、終末の淵へとまっさかさまに落ちていく寸前の地球。それを救えるかもしれないのはアマゾンの密林で発見された、古代人が造り上げたという二酸化炭素除去装置の巨大ゼリー、オルキーディア。大資本家ランドルフの下、冒険家、生物学者、元傭兵など、様々なジャンルのエキスパートが集結し、オルキーディアを発動させるための冒険が始まる――。
という最新作『The Twelve Forces』は、まず間違いなく現時点における戸梶圭太の最高傑作だと思う。タイトルが示すとおり主要登場人物だけでも一二人も有する物語を、多視点で描くマルチキャラクターの手法を取っていながら長すぎず読みやすく、SFとアクションと冒険小説の持ち味を取り込んで興趣に富み、しかも先述した戸梶文学の妙味が全て投入されているのだ。おまけに、本書ではこの作家の新たな才能すら見出すことができる。それは画才。登場人物を作者自ら描いているのだけれど、そのヘタウマぶりといったら根本敬かというほどの毒味をかもして一見の価値ありなのだ。文章で構成されたキャラクター像と照らし合わせる時の楽しさは格別!
おそらく科学的見地からすればハチャメチャな内容の物語なのだろう。が、それを力業で押し切り、ハチャメチャさに小説内世界におけるリアリティを与え、ハチャメチャさを逆手にとって哄笑へと昇華させ、「あー、面白かったあ」と満足のうちに最後のページへと至らせる、それを娯楽小説の力と言わずに何と言う。
しかし、あくまでもこれは現時点における最高傑作なのである。いずれ戸梶圭太は、もっと凄い小説をものするはずだ。その時を直木賞選考委員作家は首を洗って待っていてほしい。それは、あなた方の読み巧者としての真価が問われる秋(とき)だから。
【この書評が収録されている書籍】
小説に笑いを求める者、戸梶傘下に結集せよ! SF作家時代の筒井康隆ファン、結集せよ! 大藪春彦ファンも少しは結集せよ! 絶妙の匙加減でデフォルメされた言語感覚と、スラップスティックな状況展開が生む様々なレベルの笑い、バイオレンス&アクションシーンにおける溢れんばかりのエグい、しかし滑稽さもかもす臓物感覚、ウェットに流れない乾いた自制心。どれを取っても、従来の直木賞作品とは縁もゆかりも感じさせない独特の資質で、それこそが戸梶圭太の素晴らしさのゆえんなのだ。
温暖化が進み、終末の淵へとまっさかさまに落ちていく寸前の地球。それを救えるかもしれないのはアマゾンの密林で発見された、古代人が造り上げたという二酸化炭素除去装置の巨大ゼリー、オルキーディア。大資本家ランドルフの下、冒険家、生物学者、元傭兵など、様々なジャンルのエキスパートが集結し、オルキーディアを発動させるための冒険が始まる――。
という最新作『The Twelve Forces』は、まず間違いなく現時点における戸梶圭太の最高傑作だと思う。タイトルが示すとおり主要登場人物だけでも一二人も有する物語を、多視点で描くマルチキャラクターの手法を取っていながら長すぎず読みやすく、SFとアクションと冒険小説の持ち味を取り込んで興趣に富み、しかも先述した戸梶文学の妙味が全て投入されているのだ。おまけに、本書ではこの作家の新たな才能すら見出すことができる。それは画才。登場人物を作者自ら描いているのだけれど、そのヘタウマぶりといったら根本敬かというほどの毒味をかもして一見の価値ありなのだ。文章で構成されたキャラクター像と照らし合わせる時の楽しさは格別!
おそらく科学的見地からすればハチャメチャな内容の物語なのだろう。が、それを力業で押し切り、ハチャメチャさに小説内世界におけるリアリティを与え、ハチャメチャさを逆手にとって哄笑へと昇華させ、「あー、面白かったあ」と満足のうちに最後のページへと至らせる、それを娯楽小説の力と言わずに何と言う。
しかし、あくまでもこれは現時点における最高傑作なのである。いずれ戸梶圭太は、もっと凄い小説をものするはずだ。その時を直木賞選考委員作家は首を洗って待っていてほしい。それは、あなた方の読み巧者としての真価が問われる秋(とき)だから。
【この書評が収録されている書籍】
初出メディア

- 2001年2月21日
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