解説
『クオーレ』(新潮社)
「学童・児童」という存在の「発見」と成立
明治30年代、日本は産業革命と都市化、その巨波のただなかにあった。工場は黒煙を吐き、職工という階層が生まれようとしていた1902(明治35)年、また日露戦争を決意するための絶対条件であった日英同盟締結なったその年、『クオーレ』は『教育小説・学童日記』として翻訳・紹介された。当時の日本では、子供は12歳で小さな大人となり、15歳で大人になった。しかしやがて、子供はまず学童・児童となり、生徒となり、青年となったのちにようやく大人となるのだという考えが定着した。未熟な存在にすぎなかった子供が、純真さをたたえた「児童」となりかわる、その萌芽はこの明治35年にあった。19世紀後半の貧しいイタリアの「学童」たちの姿は、明治人に共感を持って迎えられたのである。
内容解説
エンリーコ少年が毎日の学校生活を書いた日記、あのジェノヴァの少年マルコが母親を捜して遠くアンデスの麓の町まで旅する「母をたずねて三千里」など、先生が毎月してくれたお話9話。勇敢な少年と、少年を見守る優しい大人たちとのふれあい、すなわち「クオーレ(心)」をえがく。国境と時代を超えて不滅の「愛の物語」。【この解説が収録されている書籍】
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