書評
『ビリー・ザ・キッド全仕事』(白水社)
オーディ・マーフィー、ポール・ニューマン、クリス・クリストファーソンらが映画で演じたビリー・ザ・キッドといえば、どこか淋しげで夕陽の似合う黒ずくめの色男だったもんだから、初めて実物の写真を見た日にゃ驚いた。チビで出歯でひょろっとした単なるガキンチョ。梶井基次郎の写真を見た時の衝撃(このゴリラーマンが、あの『檸檬』の、さ、作者⁈)ほどではないにしても、伝説のアウトローに対する美的幻想は一気に崩れ去ったのは言うまでもない。
が、美しくなくとも、やはりビリーを巡る言説はカッコイイと再確認させてくれるのが本書なんである。左利きの危険な拳銃使いの短い生涯を、詩、エピソード、写真、証言、インタビューなどで再構成。しかも、それら短い断章それぞれの語り部が、ビリー、宿敵のパット・ギャレット、作者へと、目まぐるしく変わっていく。とまあ、なかなかに手ごわいテキストではあるのだが、この入り組んだ手法自体が、数々の伝説ゆえに全貌をとらえ切るのが一筋縄ではいかないビリー・ザ・キッドというキャラクターそのものを表現しているともいえるのだ。
とはいえ、解釈など無用とばかりに勢いだけで読み進んでいってもビリー=本書のカッコよさは十二分に実感できる。“良くも悪しくも仕掛けがなければ”という現代文学の作者たちが背負ったポストモダンの十字架の重さを感じさせない、軽やかでスタイリッシュな語り口ゆえに、構成は難解であるにもかかわらず、エンターテインメントを読む時みたいにページを繰る手が止まらないのだ。
この難解なのに面白いという希有な本を書いたのは、カナダ人のオンダーチェ。本邦初紹介の作家である(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1994年)。国書刊行会は大手出版社が出すのを渋るマイナーな作家をフィーチャーしてくれる、本好きにとってはありがた~い出版社。今後も頑張ってというエールを送る意味でも、この本が売れてくれることを切に祈る次第だ。
余談だけれど、『ヤングガン』のエミリオ・エステベスは実物のビリーに近いと思う。
【単行本】
が、美しくなくとも、やはりビリーを巡る言説はカッコイイと再確認させてくれるのが本書なんである。左利きの危険な拳銃使いの短い生涯を、詩、エピソード、写真、証言、インタビューなどで再構成。しかも、それら短い断章それぞれの語り部が、ビリー、宿敵のパット・ギャレット、作者へと、目まぐるしく変わっていく。とまあ、なかなかに手ごわいテキストではあるのだが、この入り組んだ手法自体が、数々の伝説ゆえに全貌をとらえ切るのが一筋縄ではいかないビリー・ザ・キッドというキャラクターそのものを表現しているともいえるのだ。
とはいえ、解釈など無用とばかりに勢いだけで読み進んでいってもビリー=本書のカッコよさは十二分に実感できる。“良くも悪しくも仕掛けがなければ”という現代文学の作者たちが背負ったポストモダンの十字架の重さを感じさせない、軽やかでスタイリッシュな語り口ゆえに、構成は難解であるにもかかわらず、エンターテインメントを読む時みたいにページを繰る手が止まらないのだ。
この難解なのに面白いという希有な本を書いたのは、カナダ人のオンダーチェ。本邦初紹介の作家である(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1994年)。国書刊行会は大手出版社が出すのを渋るマイナーな作家をフィーチャーしてくれる、本好きにとってはありがた~い出版社。今後も頑張ってというエールを送る意味でも、この本が売れてくれることを切に祈る次第だ。
余談だけれど、『ヤングガン』のエミリオ・エステベスは実物のビリーに近いと思う。
【単行本】
初出メディア

ダカーポ(終刊) 1994年10月19日号
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