書評
『謎の田舎政治―これからは田舎暮らしがおもしろい!〈パート4〉』(ハート出版)
「田舎民主主義」はもういらない
ふるさとは病気になって帰るとこ。終身雇用と高度成長の神話の失われたいま、Uターン、Jターン、Iターンがマスコミを賑わしている。田舎には美しい自然がある。安らぎがある。地価も物価も安い。仕事だってないわけじゃない……。それでも人はなかなか田舎に帰りたがらない(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)。
なぜか。福島県只見町で木材加工や別荘販売を手がける著者は、その原因をズバリ“田舎政治”だという。
せっかくの自然の中に、鉄筋コンクリの体育館みたいな見るのも恥ずかしい建物をつくるセンス。女の子が田舎に帰ってくると「東京で何かあって帰ってきただべ」と千里を走るうわさ。昼間から喫茶店で本を読んでいると「今日は休みが?」体を動かしてないと悪徳という身についたクセ。高校の成績は女の子の方がいいのに、なぜか農協や役場の採用は男ばかりのコネ社会。札束はとび、スキャンダルはまき散らされ、まるで精神的格闘技みたいな選挙。
これじゃあ田舎に住みたくないわけだ、という実例が、二十年、“田舎”性と闘ってきた著者によって、粗けずりだがユーモラスに語られる。噴き出すような話ばかりだ。
たとえば只見と新潟の三条市を結ぶ国道二八九号線は、いつまでたっても「あと一〇年」で完成する謎の道路。「あんまり早く出来っちまうと仕事が無くなる」という土木業者の意向で予算が細かくついているらしい。
町長が「只見町唯一の歴史的価値のある観光資源」と胸をはる河井継之助記念館は、河井が客死した民家をわざわざ壊して、亡くなった部屋だけ移築し、三億五〇〇〇万円かけた謎の建造物。
高齢の人が結婚すればするほど高くなる謎の「仲人報奨金」や、町外の人と結婚するときだけもらえる謎の「Uターン奨励金」。田んぼの中に突如あらわれる「ガン撲滅宣言の町」という謎の大看板。
ヘンだな、と口にすれば生意気といわれ、テーブルの下で足を蹴るような嫌がらせをされる。
著者はそれにめげず、アイデアと行動力で古民家の保存再生、古本のリサイクルと連動した森林トラストなどの夢を着々と実現してきた。
「自然にあるものや、昔あったものを利用すれば、もっともっと安上りで、なつかしくて、効果のあがるものが造れんのにな」「都会のいいどごはどんどん田舎さ取り入れて、田舎のいいどこもどんどん都会さ売り込んでいげばいいべや」という、「環境と交流」に重点をおいた著者の町づくりは、しごくまっとうで、それゆえに新しいといえよう。
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