書評

『住宅道楽―自分の家は自分で建てる』(講談社)

  • 2025/06/25
住宅道楽―自分の家は自分で建てる / 石山 修武
住宅道楽―自分の家は自分で建てる
  • 著者:石山 修武
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(246ページ)
  • 発売日:1997-05-01
  • ISBN-10:4062581043
  • ISBN-13:978-4062581042
内容紹介:
陳腐で奇妙で高価格。地球上最悪の住宅の現実が、日本にある。無の境地をめざす「究極の家」、アライグマと暮らす家、棺桶を模した「ドラキュラの家」、そして「村」と名づけたみずからの住居。「住宅設計戦線」に挑む建築家が、提示する自由な住宅像の数々。「自分の家を自分で建てる」ことの意味と楽しみを、熱く説く。

家は自分で建てる? お任せ態度に「喝」!!

建築家は正体不明。頼んだらタカソーだし、態度はエラソーだし、言うことはムズカシソーだ。そのくせメロドラマの主人公にもっともなりやすい職業だ(ハハハ)。家を建てるときケンチクカに頼むのはこわい。

石山修武さんはこの建築家とユーザーという異界の交信のため、ヨモツヒラサカをえっちらおっちら、汗をかきかき往復しているような人だ。

とにかく日本の住宅は高すぎる、と彼はいう。土地も高いし、流通は多層化して、だれも“坪何十万”という管理価格でしかモノを考えられなくなっている。もっと安くなるんだぜ、ならないのはユーザーが材料や部材の値段を知ろうともしないからだ、ト。

日本の住宅は貧しい。雑誌やチラシであてがいぶちのイメージがユーザーを洗脳している。たしかにそうだ。私たちは「住宅」というとMホームとかHハウスとかの家をすぐ思い浮かべてしまう。せめて自分が住みたい家のイメージくらいキチンと考えてよ。でないと建築家は何もできない。オレたちにだって表現欲はあるけどさ、究極、建てるのはアンタだ。

当たり前の話である。本書はざっくばらんに気安く書かれているが、けっこうユーザーに厳しいのだ。それが皮肉でも嫌みでもなくて、まっ向唐竹割りなので、読んでいるうちに快感になる。目が覚める。「字が読める頭があれば、家は自分で建てられるのだ」。どうです。挑発にのりませんか。

そんな例として、男性カップルのための「ドラキュラの家」、カナダドルで木材を買いつけた「井上さんの家」(費用内訳付き)、「アライグマと暮らす家」などが楽しげに語られる。いや住み手アライグマからの批判もあって建築家はタジタジだ。

もちろん「大きな建築を設計する方がはるかに得」、そのうえ目立つので、名のある建築家は住宅をしたがらない。でも不必要なホールや庁舎をつくるには著者はインテリすぎるし、韜晦癖のわりには理想主義者とみた。それで石山さんにとって「住宅設計は一種の真剣極まる道楽」なのらしい。

決めたらボヤクなよ、さいごまでがんばって、と私は進行中の「世田谷村計画」を固唾(かたず)をのんで見守ることにする。
住宅道楽―自分の家は自分で建てる / 石山 修武
住宅道楽―自分の家は自分で建てる
  • 著者:石山 修武
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(246ページ)
  • 発売日:1997-05-01
  • ISBN-10:4062581043
  • ISBN-13:978-4062581042
内容紹介:
陳腐で奇妙で高価格。地球上最悪の住宅の現実が、日本にある。無の境地をめざす「究極の家」、アライグマと暮らす家、棺桶を模した「ドラキュラの家」、そして「村」と名づけたみずからの住居。「住宅設計戦線」に挑む建築家が、提示する自由な住宅像の数々。「自分の家を自分で建てる」ことの意味と楽しみを、熱く説く。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 1997年7月13日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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