書評
『パリ南西東北』(月曜社)
郊外像の源流知る手がかりに
ブレーズ・サンドラールという詩人がいた。生まれた国スイスを飛び出し、欧米を渡り歩いたが、サンドラールが居を構えたのが、パリの郊外だった。戦後すぐのことだ。人々は電車でパリに通勤するようになった。古き良き街並(まちなみ)は消えつつあった。だが、そこには人情と呼んで差し支えない温(ぬく)もりがあった。そんなパリ郊外の風景を、一人の写真家が鮮やかに切り取った。ロベール・ドアノーである。
サンドラールはドアノーの写真集に文章を寄せるように言われる。そして書いたのが、この本に収められた諸テキスト。
「平日の列車は楽しくない。ラッシュの時間帯にサン=ラザール駅に行ってみるといい。朝は職場に出かけ、夕方には不満で疲れ切ったまま同じ路線を利用する郊外人たちでいっぱいだ。ここはどこの国なのか? アリ塚のようだ」
手厳しい。「世界全体が病んでいる」とか平気で書く。皮肉屋である。だが、時代の証言として大変貴重だと思う。
1990年代以後、パリの郊外を語る言葉は紋切り型になった。暴力、ゲットー化、荒廃する団地。郊外像の源流を求める人にはうってつけの本。昼間賢訳。
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