書評
『道の向こうの道』(新潮社)
失われた文学の豊かさ
80歳を越えた作家による自伝的作品集だが、単なる懐古趣味の文章ではない。失われた文学の環境の豊かさに触れる読者の内側に、言い知れない焦燥感が芽生える。1956年、主人公は早稲田大学第一文学部露文科の学生になる。入学前から書いていた詩のこと、名物教授たちの講義、そして同級生たちとの邂逅が、飾らない筆致で描かれていく。
早稲田通りの古書店で『詩と愛と実存』という本を買い、学生相手の中華料理屋で焼きそばを食べていると、店の外を同級生の李恢成が「のっしのっしと」歩いていった……。
文学の記憶と人物の配置が絶妙にブレンドされて、頁を捲(めく)る手が止まらない。
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