書評
『時のながめ』(新潮社)
戦争への深い後悔底に
高井有一のエッセイ集。高井の小説は少なからず読んできたが、エッセイ集を読むのは初めてだった。エッセイ一つひとつがとても短い。だが、その中に、長い間文章を書いてきた人間にしかできない落ち着いた呼吸が感じられる。二十年以上も前の書き物も混じっている。にもかかわらず、一貫している。そんな印象だ。書いてあることも対象もバラバラなのに、戦争(ほぼすべてが太平洋戦争)への深い後悔と、亡くなった文人を哀惜する感情が、文章の底に流れている。
たとえば、「戦争は悪だ」と短歌に詠み込んだ宮柊二に対し、「単純な表現だが」いまそれを言わなくなったら、「宮柊二を裏切る事になる」と書く。胸に刻みたい。
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