書評

『火山の下』(白水社)

  • 2026/08/06
火山の下 / マルカム・ラウリー
火山の下
  • 著者:マルカム・ラウリー
  • 翻訳:監訳:斎藤 兆史,渡辺 暁,山崎 暁子
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(506ページ)
  • 発売日:2023-05-25
  • ISBN-10:4560093490
  • ISBN-13:978-4560093498
内容紹介:
(書物復権)《二十世紀文学の到達点》 ポポカテペトルとイスタクシワトル。二つの火山を臨むメキシコ、クワウナワクの町で、元英国領事ジェフリー・ファーミンは、最愛の妻イヴォンヌに捨て… もっと読む
(書物復権)《二十世紀文学の到達点》
ポポカテペトルとイスタクシワトル。二つの火山を臨むメキシコ、クワウナワクの町で、元英国領事ジェフリー・ファーミンは、最愛の妻イヴォンヌに捨てられ、酒浸りの日々を送っている。1938年11月の朝、彼のもとに突然イヴォンヌが舞い戻る。ぎこちなく再会した二人は、領事の腹違いの弟ヒューを伴って闘牛見物に出かけるが、領事は心の底で妻を許すことができず、ますます酒に溺れていく。彼を現実に引き戻そうとするイヴォンヌとヒューにもなすすべはなく、二人の救いの手を拒絶する領事は、ドン・キホーテさながらに、破滅へと向かって衝動的に突き進んでいく。
ナチスの台頭やスペイン内戦など不穏な世界情勢を背景に、領事の悲喜劇的な一日が、の祝祭的な禍々しさと重なり合い、ジョイスの『ユリシーズ』を思わせる圧倒的な凝集力で描き出される。聖書、ギリシア神話、メキシコの歴史、更に『神曲』『失楽園』『ファウスト』等の文学作品をモチーフとして、領事の滑稽ながらも切実たる狂気の行方が、叙情的かつ重層的に、イメージ豊かにあぶり出されていく。
ガルシア=マルケス、大江健三郎ら世界の作家たちが愛読する二十世紀の不滅の傑作、待望の新訳。

元英国領事の甘美な24時間

いったいこれはどんな小説なのだろう? 悩む。だが読むのをやめられない。不思議な魅力だ。時は1938年11月2日。場所はメキシコのクエルナバカ。

ある男女がいる。ジェフリーとイヴォンヌ。ジェフリーはアルコール依存症。妄想癖もある。2人の身に何が起こるかといえば、詳しくはここに書けないのだが、最後の最後に到るまで、特に大きな出来事が起るというわけでもない。

描かれているのは、2人を取り巻く人々と彼らとの諍(いさか)いだ。酒を呷(あお)る。喧嘩(けんか)する。幻聴に悩まされる。また飲む。散歩する。尽きることなく議論する。描かれているのは、そんなことだ。語り手はどんどん交代する。章ごとに異なる。そして24時間が語られる。

そう、描かれているのはたったの1日だ。英国領事だった男の甘美な1日が長く語られる。思い出すのはアメリカのTVドラマ『24』だろう。だがジャック・バウアーがアメリカという巨大な国家を1人で背負っていたのと対照的に、この小説の登場人物たちは何も背負っていないようにみえる。小説の醍醐味(だいごみ)は膨大な細部にある。
火山の下 / マルカム・ラウリー
火山の下
  • 著者:マルカム・ラウリー
  • 翻訳:監訳:斎藤 兆史,渡辺 暁,山崎 暁子
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(506ページ)
  • 発売日:2023-05-25
  • ISBN-10:4560093490
  • ISBN-13:978-4560093498
内容紹介:
(書物復権)《二十世紀文学の到達点》 ポポカテペトルとイスタクシワトル。二つの火山を臨むメキシコ、クワウナワクの町で、元英国領事ジェフリー・ファーミンは、最愛の妻イヴォンヌに捨て… もっと読む
(書物復権)《二十世紀文学の到達点》
ポポカテペトルとイスタクシワトル。二つの火山を臨むメキシコ、クワウナワクの町で、元英国領事ジェフリー・ファーミンは、最愛の妻イヴォンヌに捨てられ、酒浸りの日々を送っている。1938年11月の朝、彼のもとに突然イヴォンヌが舞い戻る。ぎこちなく再会した二人は、領事の腹違いの弟ヒューを伴って闘牛見物に出かけるが、領事は心の底で妻を許すことができず、ますます酒に溺れていく。彼を現実に引き戻そうとするイヴォンヌとヒューにもなすすべはなく、二人の救いの手を拒絶する領事は、ドン・キホーテさながらに、破滅へと向かって衝動的に突き進んでいく。
ナチスの台頭やスペイン内戦など不穏な世界情勢を背景に、領事の悲喜劇的な一日が、の祝祭的な禍々しさと重なり合い、ジョイスの『ユリシーズ』を思わせる圧倒的な凝集力で描き出される。聖書、ギリシア神話、メキシコの歴史、更に『神曲』『失楽園』『ファウスト』等の文学作品をモチーフとして、領事の滑稽ながらも切実たる狂気の行方が、叙情的かつ重層的に、イメージ豊かにあぶり出されていく。
ガルシア=マルケス、大江健三郎ら世界の作家たちが愛読する二十世紀の不滅の傑作、待望の新訳。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2026年8月1日

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